2026.07.23

時を重ねるほどに味わい深く。里山・大原の自然に溶け込む「古道具 ツキヒホシ」

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

京都市左京区の北東部に位置し、豊かな自然と里山文化が美しく息づくまち「大原」。今回は、平家物語ゆかりの寺・寂光院(じゃっこういん)への参道沿いにある「古道具 ツキヒホシ」を訪ねました。
お店を営むのは、2016年に大原に移住した山本真琴さん。豊かな自然のなかで、子育てやお店、日々の暮らしを営んできた山本さんに、飽きることのない大原の魅力について伺いました。

暮らしに寄り添う「古き良きもの」と出会えるお店

市内の中心部からバスに揺られること約30分。道路脇に掲げられた「ようこそ大原へ」の看板を通り過ぎると、パッと視界がひらけ、緑豊かな里山の風景に胸が弾みます。お店があるのは、寂光院へと向かう静かな参道沿い。心地よい小川のせせらぎに耳を澄ませながら歩いていくと、ガラス越しにランプの光がやさしく揺れる建物が見えてきます。

お店に並ぶのは、器や籠、置物など、日常生活のなかで大切に使いたくなる暮らしの古道具たち。これまで山本さんが「一期一会」で出会ってきたアイテムばかりです。

「かつて丁寧に作られた美しいものを、現代の暮らしのなかで気兼ねなく楽しく使っていただきたい。そんな想いで、日々の暮らしに寄り添う道具をご用意しています」

一つひとつのアイテムがまとう物語はさまざま。「どんなふうに使われていたのだろう?」と想像したり、「こんなふうに使ってみたい」とアイデアを膨らませたりすることも、古道具の醍醐味です。

「ものも、人も、お店をやっていなかったら出会えなかったご縁がたくさんあります。素敵なものと出会ったときの嬉しさを共有したり、古道具の良さを分かち合ったり。そういう日々を慈しみながら、お店を営んでいます」

仏具「妙鉢(みょうばち)」をリメイクしたランプシェード。山本さんのアイデアで、穴を開けソケットを通すことで、新たな暮らしの道具へと生まれ変わった
ビー玉やおはじきのつかみどりコーナーは、子どもたちに大人気

ご縁が導いた、大原への移住

移住前、山本さん一家は、北区・紫竹エリアにお住まいだったそうです。

「期限付きの社宅住まいだったので、いつかは引っ越しが必要な状況でした。そんなとき突然夫から『大原に住まない?』と提案されたんです」

山や自然が好きだというご主人。物件情報が少ない大原ですが、諦めず毎日のようにインターネットでリサーチを続け、築100年を超える古民家に出会います。住まいとなる母屋とは別に“離れ”があったことが、後にお店を始めるきっかけとなりました。

「離れは、元々うどん屋さんだったんです。こんなに素敵な場所ですし、活用しないのはあまりにももったいない。そんな気持ちで、自分は何ができるだろうと考え始めました。そんなときに、北野天満宮の骨董市“天神さん”で、大原に倉庫を持っているという骨董屋さんと出会ったんです」

「話が弾むなかで、『そんなに好きなら、やってみたら』と言われて。それまで、あまり『古いものが好き』と自覚していなかったのですが、自然とわくわくする気持ちが芽生えてきて、古道具屋をすることに。人生は本当に、巡り合わせですね」

母屋のリノベーションと並行して進めた、離れのお店づくり。壁の漆喰を自分たちで塗るなど、少しずつ手を動かしながら空間に息を吹き込んでいきました。母屋への移住とほぼ同じタイミングでお店をオープンすると、さまざまなお客さんが訪れるようになっていきました。

「地元の方をはじめ、観光客、移住者、古道具好きの方など、さまざまな人との出会いの場になったことも、とても嬉しく思っています」

お店が間口となり、繋がっていく人の縁。大原の暮らしの魅力は、こうした出会いの中から生まれているのかもしれません。

地域で見守る、温かい子育て環境

山本さんが大原での暮らしを振り返るとき、真っ先に浮かぶのは、この土地ならではの豊かな子育て環境でした。

「移住当時は幼稚園の年中クラスだった息子は、今や高校1年生になりました。息子もお世話になった『京都大原学院』は、1学年10〜17人ほどの小中一貫校。人数が少ない分、授業中もたくさん発言しますし、学年を越えた関わりも自然と多くなる。『一人ひとりの存在感が大きい環境』だからこそたくさんの貴重な経験をさせていただき、感謝の気持ちでいっぱいです」

学校では田んぼや畑仕事、しば漬け作りなど、大原の農に根ざした独自の行事も豊富です。9年生(中学3年生)になると「大原提言」という学習があり、地域住民が集まるなか、将来の大原についての提言を生徒たち自ら発表します。人々が子どもたちを温かく見守る熱量に、山本さんは何度も感動してきたそうです。

「息子が卒業するとき、先生が生徒たちの日常生活をエッセイにして、本をつくってくださったんです。先生の視点から見た子どもたちの様子が生き生きと記されている、私の宝物です」

取材日、学校では運動会の練習が行われ、子どもたちの元気な声が響いていた

大原には高校がないため、卒業後はまちへ出て、皆それぞれの進路に向かいます。山本さんの息子さんも、バスと電車を乗り継いで通学し、高校生活を送っています。

「息子がさらに外の世界に歩み始めた今、大原で子育てができて本当に良かったと改めて感じています」

土に触れ、地域の輪のなかで暮らす

市街地から少し離れた大原の暮らし。衣食住はどのように変化したのでしょうか。

「移住してから、自宅と近所の畑で家庭菜園を始めました。今は、ズッキーニやトマトなどの夏野菜、ハーブやお花などを育てています。夏場の畑仕事は大変な面もありますが、自然の恵みに感謝の気持ちが自然と湧いてきます」

今年の春に収穫したという「うすいえんどう」
人参やパセリ、オレガノなど、畑で咲いた季節の花々は、ブーケにして店内に

「『里の駅 大原』の旬菜市場で地元野菜を買うこともあります。このまちにはスーパーがないので、肉や魚、日用品などは宅配を上手に活用されている方が多い印象です。車で20~30分走ればまちなかのスーパーにも行けるので、困ることはありません」

地元野菜がずらりと並ぶ旬菜市場。つきたてのお餅やお弁当、スイーツや切り花なども販売している

地域ならではの行事も、日々の暮らしの楽しみのひとつ。大原女まつりの時代行列や氏神様である江文神社のお祭りなど、住民の手で大切に受け継がれてきました。

「地域の行事は、地元の方に教えていただきながら、移住者たちも役割を担います。自分たちも楽しみながら、次の世代へ繋いでいきたいですね」

かけがえのない日常を、この先も

「大原は本当に良いところです。あの日、夫が大原に移住しようと言ってくれたこと。そして、諦めずこの家を見つけてくれたことには、今も感謝の気持ちでいっぱいです」

山本さんお気に入りの散歩道から見える、里山の風景

「ふと、いつかこの暮らしに飽きてしまうんじゃないか、と不安になったことがあって。この土地で長く暮らしてきたおばあちゃんに聞いてみたら、『飽きることはない、ずっと綺麗やで』と言ってくださいました。自然の移ろいを感じ、人やモノとの出会いを積み重ねる。その喜びを噛みしめながら、これからもここでの暮らしを楽しんでいきたいです」

「ツキヒホシ」の名の通り、月日と星が巡る大原の自然は、今日も美しく表情を変えていきます。ご縁に導かれてこの地に根を下ろした山本さん。古道具が時を重ねて味わいを増すように、山本さんの暮らしはこれからも、豊かな時を刻んでいきます。

『古道具 ツキヒホシ』
京都市左京区大原草生町70
Instagram:https://www.instagram.com/tsuki_hi_hoshi.antiques/
Blog:https://tsukihihoshi.blogspot.com/

CHECK OUT

「人生は本当に、巡り合わせですね」
山本さんが大原での暮らしを振り返りながら、何度もおっしゃったこの言葉が、とても印象深く心に残っています。住むまちも、仕事も、日々の暮らしも、いつどんなご縁で変化が訪れるか分かりません。そんな巡り合わせが、日常のどこかに隠れているとしたら……?想像するだけでなんだかワクワクする、楽しい取材時間でした。ツキヒホシに並ぶ古道具も、山本さんが手繰り寄せた愛おしいご縁そのものです。日常を彩る“お気に入り”を見つけに、ぜひ足を運んでみてください。

執筆:佐藤 ちえみ
編集:藤原 朋

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