2022.04.08

学びと挑戦はエンドレス。“一品一様”を貫くエレクトロニクス企業

明治20年代、日本初の水力発電所がつくられ、路面電車が走り出した京都。いち早く近代化を成し遂げたこのまちで最初に電気事業を興したのが、今回ご紹介する株式会社松本電機製作所です。

創業は1907年(明治40)。海軍の電気技師を務めた初代・松本敏三郎氏が持ち前の技術力を活かし、電車などに用いる産業用モーターの製作・販売事業を興して以降、電気工事、制御盤製作、自動化システム設計と、四世代にわたって事業を発展させてきました。

昨年(2021年)春には、およそ80年ぶりに社屋を一新。若手社員の声を取り入れた働きやすい環境のもと、「次の100年を見据えた人材育成と組織づくりを本格化させたい」と、事業の中核を担う設計と営業の2部門に新たな人材を迎えようとしています。

“オーダーメイド”に特化して事業を展開

はじめにお話を伺ったのは、4代目社長の松本一志さん。中学生の頃からモーターいじりや家業の手伝いに精を出し、大学卒業後は「家業を継ぐ前に広い世界を見ておきたい」と、京都の大手制御機器メーカー・オムロンへ就職。37歳で家業に入って以来30年近く経営の中枢に立ち続け、めまぐるしい時代の変化を乗り越えてきました。

「高度経済成長期にあった父の代に、わが社の基幹事業は“動力”から“制御”へシフトチェンジしています。産業用モーターがどこでも安く手に入るようになったのと入れ違いに、大規模なビルや工場の建設ラッシュがはじまり、高圧電力を変換・分配する高圧受電設備や、屋内の設備機器をコントロールする制御盤の需要が一気に高まったのです。

しかし、身近な家電製品を見てもわかる通り、電気関連の産業はまさに日進月歩で、次々に新しいことに挑戦しなければ時代に取り残されてしまいます。自分の代では制御盤を一面製作するにしてもお客さまに言われた通りにつくって納めるのではなく、一歩先の技術や発想を取り入れた付加価値の高いモノづくりを目指してきました」

松本社長は、それまで自社で取り扱っていなかったシーケンサー(PLC)やサーボモーターといった自動制御技術を社内に浸透させると同時に、顧客との対話を通じて事業内容や課題などを把握し、それぞれに最適な制御システムを提案・実現するオーダーメイド方式を確立。複雑なコントロールを可能にするプログラム設計やタッチパネル製作などソフトウエア開発なども手掛けています。

例えば、とある魚の養殖場からの「生産性が上がらず困っている」という依頼。その養殖場では従業員が1日に複数回、餌やりをしていましたが、餌を与えるタイミングや量がわずかに変わることで水質悪化が起き、結果的に歩留まりが悪くなり収益が上がらないという課題を抱えていました。

そこで、餌やりのタイミングと量を適切かつ自動的に行う制御装置の開発に着手。結果として水質も維持できるようになりました。

「人間がそばについていなくても、必要な時に必要なだけ餌をやったり、水質が悪くなりかけた場合は適度に水を循環させるなど、魚が元気に育ちやすい環境を維持するためのコントローラーです。最近動き出したばかりなので結果が出るのはこれからですが、きっと喜んでくださると思いますよ」と早くも自信をのぞかせています。そして農業分野にも応用できるため、様々な技術を現在蓄積中です。

「毎回お客さんと一緒に試行錯誤しながらモノづくりができるのがオーダーメイドの良さ。いろいろな業種・業界のことを勉強できますし、そこで得た知識や経験がまた別のところで活かされて、自社の技術力や提案力の向上につながります。よそは手を出さない難しい案件も『松本電機ならやってくれる』との信頼でお声が掛かり、それがまた新たな経験として蓄積されていく好循環がつづいています」

そうした中、近年は工場や倉庫などの大規模施設における省エネ化や環境に配慮した取り組みに貢献するDX(デジタルトランスフォーメーション)分野でも自社の強みを発揮しています。

「代表的なものとしては、工場内のどこでどのくらいの電力が消費されているかを見える化するシステムですね。場所、時間帯別に経過をチェックできるので、仮に夜間稼働していないはずの場所で多くの電力が消費されていると分かれば、そこの無駄を取り除きやすくなります。今後、カーボンニュートラルの取り組みが産業界全体に広がっていく中で、さまざまな現場に対応できるわが社の強みを発揮したいですね」

町工場の良さを守り、緩やかに組織改革

「一品一様のモノづくりは今後も貫き通したい」としながらも、「組織のあり方をさらに進化させていく必要がある」と松本社長。小さな町工場からスタートした自社のアットホームな雰囲気やコミュニケーションを取りやすい関係性を保ちつつ、今の若い世代に適した職場環境や制度の見直しを進め、「一人でも多く有能な人材を獲得したい」という考えです。

その象徴といえるのが、2021年4月に完成した新社屋。老朽化が進み、作業スペースを確保するのも難しいほど手狭になっていた木造社屋を取り壊し、「従業員の働きやすさ」を重視して一からつくり上げたものです。

「この先の若い世代が使う社屋なので、内装やデザインなどはほとんど彼らに任せました。立派な社長室も用意してもらったのですが、社員と顔を突き合わせて話ができるオフィスのほうがやっぱり落ち着きますね(笑)。工場もオフィスも間仕切りを減らした開放的な造りになったので、部署間の連携が取りやすくなったと思います。これを機に社内の仕組みも徐々に変えていこうと、一昨年の夏に組織運営に長けた人物を専務取締役に迎えました」

その専務とは、オムロン時代の同僚だった内藤勉さん。本社の技術営業職や系列企業の経営などに携わった内藤さんが一昨年春に定年退職したことを受けて、松本社長は「うちでもうひと働きしてもらえないか」と再就職を持ち掛けたそうです。

松本社長と連携し、社内の組織改革に取り組む内藤勉専務(右)

「私よりも客観的に会社を見ることができますし、うちの社風に馴染みやすいおっとりした性格なので、現場の理解を得ながら緩やかに社内の仕組みを変えてくれるんじゃないかと期待を込めてお願いしました。ねらい通り、着々とよい変化を起こしてくれていますよ」

内藤専務の加入後、1年足らずの間に「週休二日制」「奨学金返還支援制度」がスタート。まずはそうした「大企業では当たり前」の福利厚生面の充実化を図り、次に人事評価制度や給与体系の整備などを進めていく方向性も定まっています。

「これまで、良くも悪くも“なぁなぁ”で済ませていた部分を会社組織らしく整えている途中段階にあるのですが、何もかもシステマチックに変えるつもりはありません。昔ながらのうちの良さ……例えば、社員に子どもが生まれたら朝礼でおめでとうと祝ってあげたり、ピンチの場面でみんなが助け合ったりするような、家族的な雰囲気はこれからも大事にしていきたいですね」

飛躍を見据え、人材育成に注力

守るべきは守りながら、ソフトとハードの両面で改革を進めるねらいは、「有能な人材の獲得」。それは、松本社長が思い描く会社の未来とも深く関係しています。

「現在は京阪神地区を中心とした国内の仕事をメインに手掛けていますが、お客様の海外工場での仕事も多数経験していることもあり、ゆくゆくは海外にも進出したいと考えています。以前視察したモンゴルの日系企業の工場では未だに旧ソ連時代のような古い設備が使われていましたし、ビジネスチャンスはまだまだあると思うのです。うちの技術はどこの国でも絶対に通用すると確信していますが、海外で仕事をするとなれば当然、語学力や交渉力も必要になってきますから、技術的な知識・経験などに加え、そうしたスキルを持った人、あるいは身に付ける意欲の高い人に来てほしい。そして理想を求めるだけでなく、“選ばれる会社”に成長していかなければならないという思いで改革に取り組んでいるところです」

海外進出も睨みつつ、松本電機製作所ではこの春2名の新卒社員を採用し、従業員16名のうち約半数が20代に。人材確保や組織の若返りは順調に進んでいるように見えますが、「定着してくれるか、成長してくれるか、むしろここからが正念場です」と松本社長。まず、どのような点を重視して採用しているのか、人材選びのポイントを聞きました。

「面接時によく『モノづくりが好き、機械が好きなので』と言われますが、それは当たり前で、専門用語を交えた会話が成り立つか、きちんと受け答えができるかといった点に注目しつつ全体的な人柄を見るようにしています。営業職はもちろんですが、設計などの技術職も打ち合わせなどでお客様と接する機会が多いので、コミュニケーション能力の高い誠実な人柄であることが重要です」

松本社長が課題としているのは、そうした基準のもとで厳選した人材をどう育てていくか。かつては「習うより慣れろ」が業界の常識でしたが、「もはやそんな時代ではない」と人材育成に関するさまざまな試みを行っているそうです。

「現場の統括や先輩社員に丁寧なフォローをお願いしつつ、経済産業省が一般に提供している『社会人基礎力』の資料をアレンジした研修プログラムを取り入れたり、お取引先でもある三菱電機さんが開講している商品研修に参加できるようにしたりと、試行錯誤で学びの機会をつくっています」

そのうえで、「自分なりに勉強したり、先輩の仕事ぶりを見習ったりして力を付けていってほしい」とも。そうした意識で取り組まなければ、顧客のさまざまな要求に応えつつ、期待を上回るようなオーダーメイドのものづくりに対応できないからです。

「特に新卒や経験の浅い人には、自ら勉強したいと思わせる仕掛けづくりが必要でしょうね。勉強って面白くないとつづきませんから、何か一つ壁を乗り越えたらきちんと褒めてあげるとか、手掛けた製品が実用化されている現場を見せるとか、小さな成功体験を積み重ねる中で本人のやる気を高めるようにしています」

モノづくりが好きな人は、ひたすら同じものを作りつづけるのが得意な人と、それでは飽き足らずさらに難易度の高いものに挑戦する人の2タイプに分かれますが、“松本電機製作所向き”なのは紛れもなく後者でしょう。松本社長も断言します。「うちの仕事はまさに挑戦の連続。それを面白がれる人間なら毎日ワクワクしながら働けると思いますよ」と。

製品の入口から出口までをカバーする設計職

松本電機製作所は、経理部、営業部、配電制御部の大きく3つの部署から成り、配電制御部は設計部門、制作部門、工事部門の3部門に分かれています。その中で働く社員の方々にもお話を伺いました。

設計部門に所属する松本裕嗣さんは、入社7年目の若手社員。松本社長の長男で、新社屋のプランニングも任された次代のリーダーです。大学卒業後、他社で修業することも考えたそうですが、「早く会社に溶け込みたい」と新卒入社の道を選択。制作部、営業部を経て、2020年から現在の部署で働いています。

「工場向けの自動制御盤や高圧受変電設備、企業様の展示会用デモ機などの設計業務を幅広く手掛けています。機器の仕様検討からはじまって、内部の配置や電気回路などを図面に起こし、その設計図を制作部門に渡したあとは、仕上がりのチェックや試運転にもかかわります。一番やりがいを感じるのは、自分で設計したものが現実に出来上がり、イメージした通りに動いた瞬間ですね。営業スタッフを介してお客様の声が届くことも多く、こうしてよかった、次はこうしようと自分の中で課題を見つけて取り組みやすい環境です」

年齢的にも実績的にも中堅に差し掛かろうとしている今、自分自身の成長もさることながら後輩たちの育成、そして会社の将来について真剣に考えるようになったという松本さん。その意識が高まったきっかけが新社屋のプランニングでした。

昼食や休憩時間に自由に利用できる食堂・カフェスペース。外のデッキスペースやテラス席も活用し、バーベキューなどの食事会やミニコンサートを開催することも。

「IT企業みたいなおしゃれな空間でのびのび働きたいなという個人的な願望と、電機業界に付きまとう3Kのイメージを払拭し、若い人がどんどん集まる会社にしたいという将来のビジョンがぴたりと合わさった形です。食堂やロッカールームは従業員が今の倍に増えても大丈夫な規模感にしようとか、いつも清潔に働けるようにシャワー室や洗濯機も設けようとか、活気あふれる会社の未来像を思い描きながらつくり上げていきました」

今後の目標をたずねたところ、「どこにも負けない一流のものづくりの姿勢を変えず、それをしっかりと後輩たちに引き継いでいけるように全力でサポートしていきたい」と力強く語ってくれました。

精鋭揃いの先輩社員の存在が大きな刺激に

そんな松本さんに見守られている後輩の一人が、2020年秋に中途採用で設計部門に加入した春名和貴さん。地元岡山の工業高等専門学校(高専)を卒業後、暖房器具メーカーで約3年間、生産設備の設計に携わっていたそうです。

「前の会社を辞めた理由は、どれだけ自分が成長しようと思っても、社内風土的に難しいなと感じたから。設備をよりよくする方法を自分なりに考えて提案しても、なかなか受け入れてもらえない環境だったので、次に就職するなら“成長を後押ししてくれる会社にしよう”と決めていました。こちらに入社して自分がどれだけ成長したのかはわかりませんが、毎回新しい設計に取り組むのは大変だけど楽しいですね」

印象深い仕事について聞くと、図らずも松本社長のお話に登場した「養殖場案件」が浮上。春名さんは、餌やりや水の入れ替えなどを自動で行う装置のプログラムやデザインを担当していたのです。

「“こんな機能が欲しい”といったお客さまの要望に、利便性などを良くするための付加価値要素を加えるのが基本スタイルなのですが、この装置の時はタッチパネルにメニュー一覧を加えた結果、使いやすいと喜んで頂けたのが一番の思い出です。その時の気持ちを忘れず、常に使う人の立場に立って考えられる技術者であり続けたいなと思います」

春名さんは自分の成長のため、わからないことはまず自分で調べ、それでも解決しない時に先輩に聞くことに決めているそう。そして、どんな質問をしても的確な答えが返ってくる、先輩たちのポテンシャルの高さに大きな刺激を受けているそうです。

「まさに少数精鋭というか、一人ひとりが強みを持っていて、自分も負けていられない、もっと頑張らなくてはと思わせてくれる会社。僕自身は、誰も思い付かないようなアイデアや独創性の部分をさらに磨いていきたいですね」

仕事の面白さ、勉強の大切さを伝えたい

最後にお話を伺ったのは、制作部門の工場長・梅元大介さんです。前職の電気の施工管理の現場で配電盤の組み立てに興味を持ち、専門学校を経て2009年に中途採用で入社。以来、制作部門一筋でさまざまな製品づくりに携わってきました。現在は制作に取り組む傍ら、工場長として制作部門全体の工程管理や労務管理を担当しています。

「入社して10年以上になりますが、この仕事は何年やっても飽きないですね。ほぼすべて一点もので中身が全部違ううえに、どんどん新しい技術が入ってくるので、何か一つ組み立てるたびにいろいろな発見や学びがあります。特に工場長になってからは、部下に質問されたらすぐに答えられるように細かい部分まで勉強したり、自分で理解したことを言葉で伝える方法についても考えるようになりました」

部下の指導で心がけていることは、「個性に合った教え方」。マイペースな人、せっかちな人、おしゃべり好きな人など、それぞれのタイプに応じて声かけのタイミングや内容を変えているそうです。

「自分も入れて4人体制の部署なので、目は行き届きやすいですね。個性は本当にバラバラなのですが、例えば誰かが納期目前で大変な時はこちらが何も言わなくても自然とみんなが手伝いにいくような結束力もあるんです。そういうピンチを招かないように工程管理には気を付けていますが、いざという時は本当に頼りになりますね。

新しく入った人は、とにかく遠慮せずに何でも聞いてほしいと思います。そうはいっても現場がピリピリしていたら話しかけづらいでしょうから、みんながゆとりを持って働けるような現場の雰囲気づくりも大事ですね。コミュニケーションを取りながら、仕事の面白さ、勉強しつづける大切さを伝えていきたいなと思っています」

ベテランの領域に入ってもなお研鑽を怠らず、仕事を通じて自分や後輩たちの成長を目指して邁進する社員の皆さんの姿は、松本社長が語っていた「挑戦を面白がれる人間」そのものでした。海外進出も視野に勢いを増しつつある100年企業の松本電機製作所は、自分の可能性を無限に広げられる絶好の舞台といえるのではないでしょうか。

※本記事はBeyond Career事業にて受注・掲載した求人記事となります。Beyond Careerについてはこちら

編集:北川 由依
執筆:岡田 香絵
撮影:中田 絢子

求人募集要項

企業名・団体名株式会社松本電機製作所
雇用形態正社員
募集職種①営業
②設計
仕事内容①営業
お客様のお困りごとを解決する提案から案件の受注します。

②設計
お客様の課題解決策を設計図面に落とし込み製作部門に引き継ぎます。
給与キャリア採用   :210,000~280,000円
(年齢や経験内容により決定します)

新卒採用(大卒) :209,000円
勤務地〒601-8037 京都市南区東九条西河辺町6番地
勤務時間8:15~17:00 (昼休憩:12:00~12:45)
休日・休暇■完全週休2日(土・日)・祝日
■年末年始休暇・夏期休暇・有給休暇・慶弔特別休暇・出産・育児休暇制度あり
応募資格・選考基準自動車普通免許
選考プロセス書類選考(履歴書、職務経歴書)

一次面接と適性検査
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面談場所本社

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