移住の第一歩は“つながりづくり”から みやまトライアル・ワーキングステイに密着!(後編)

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観光業の人手不足を背景に、遠くに暮らしながらでも美山を支えてくれる『関係人口』の増加を目指す南丹市美山町。そのきっかけづくりとして始まった、3泊4日の職場体験プログラム、みやまトライアル・ワーキングステイ(以下、TWS)。

ここからは<江和ランド><美山里山舎>での活動内容を取り上げた前編と同様に、その他2カ所の職場体験に迫ってみたいと思います。

受入先③料理旅館 枕川楼
美山を代表するおもてなしの舞台裏へ

<料理旅館 枕川楼(ちんせんろう)>は、清流美山川のほとりに佇む、明治36年創業の老舗旅館。その昔、近くにあった材木の荷揚げ場で働いていた人々を、初代が手厚くもてなしたことから宿の歴史が始まりました。

現在は三代目のご主人と女将さん、二人の娘さんが中心となり、代々受け継いできたおもてなしの心を体現しています。なかでも自慢は、四季折々の美山の食材を使った季節感あふれるお料理で、それをお目当てにはるばる海外からやってくるお客さんも少なくないそうです。

こちらでの職場体験には、20代の男女2名が参加し、男性は皿洗いや盛り付け作業といった調理補助を、もう一人の女性は客室清掃やテーブルセッティングなどの客室業務を担当しました。いずれも直接お客さんの目にふれることのない裏方作業ですが、万全のおもてなしをするうえで決しておろそかにできない重要なお仕事です。

そうした作業の合間を縫って、女将さんと『美山で働くこと』について語り合う時間も持たれました。そのなかで女将さんは、二人の語学力やITスキルの高さに着目し、「どこかに就職するのもいいけれど、ご自分の得意を活かして仕事をつくるのもよいのでは?」と提案しています。

外国人のお客様が急増するなか、外国語を話せる人材を求めている観光事業者は、うちも含めかなり多いと思います。でも、そのほとんどが小規模事業者なので、長期で人を雇えるほどのゆとりはない。

だから、この日だけ来てください!とお願いできる人がいたら、絶対に重宝されると思うんですよ。ホームページも同じ理由で、時々メンテナンスをしてくれる人が欲しいという声をよく聞きます。スキルをお持ちならぜひそれを美山で活かしてもらいたいです。

現在、<枕川楼>では、女将さんのお話にあったピンポイントで働いてくれる人材のほかに、長期雇用を前提とした調理スタッフも募集しています。「次の担い手として基礎からきちんとお教えしますので、やる気さえあれば未経験の方も歓迎です。ご興味のある方は、様子見がてらお食事にいらしてくださいね」とのことでした。

受入先④特定非営利法人 芦生自然学校
芦生の森を守り継ぐ、次の一手を模索

最後にご紹介する受入先は、<特定非営利法人 芦生自然学校>。かつては林業や木工を生業とする人たちが多く暮らしていた、町内で最も山深いところにある芦生集落を舞台に、子どもを対象とした四季折々の自然体験プログラムを実施しています。

組織を立ち上げたのは、芦生集落で生まれ育った理事長の井栗秀直さん。大人になり一度は故郷を離れたものの、人口減少により集落全体が衰退していく様子を目の当たりにし、「芦生の尊い自然や文化を若い世代と分かち合い、守っていかなければ」と一念発起し、2004年に美山町で初めての特定非営利法人を設立したのです。

ここで3名の参加者が取り組んだお仕事は、3日目に予定されていた雪遊びの体験プログラムに備えての会場準備と、開催日当日、子どもたちを見守りながら一緒に遊ぶこと。また、これらに加えて、芦生自然学校を設立した経緯や集落の歴史、今後の課題などについて井栗さんから直接お話を聞き、意見を述べ合う“特別授業”もありました。

15年近く子どもを対象とした事業を行なってきて、かつて自然学校に来ていた子がボランディアとして運営を手伝ってくれたり、わが子を連れて訪ねて来てくれたりするようになりました。

そうした部分で手応えは感じているものの、集落の人口減少に歯止めはかからず、担い手不足の問題がより一層深刻化しています。

そこで今後は大人を対象とした事業を始めようと考えているのですが、具体的にどういったものが望ましいのか検討している段階なので、参加者のみなさんのアイディアをお聞きしたくて、背景のところからお話させてもらいました。

真剣に考えてくれてありがたかったし、今後も何かのかたちで応援していただけたらうれしいですね。

地域に根ざす旅館やNPO法人のお仕事に取り組み、代表者から直々に深いお話も聞くことができた参加者のみなさんからは、次のような感想が寄せられました。

<枕川楼>の参加者は、「調理場では当日の料理の支度だけでなく、翌日や翌々日の仕込み作業も並行して行われていて、手間ひまかけて料理が作られていることがわかった」という仕事に関する気づきのほか、「外国語が話せる人材が足りないといった地域の困りごとをビジネスにつなげる方法があると知り、多様な働き方ができそうな地域だと思った」という女将さんのお話に関するものも。

<芦生自然学校>の参加者からは、「子どもたちとの雪遊びも楽しかったが、一番印象深いのは井栗さんのお話。芦生集落への理解が深まり、自分にできることはないかという意識が自然と芽生えてきた」という感想が異口同音に聞かれました。

体験で得たものを共有し、『これから』を考える

TWS最終日には、3日間の職場体験を改めて振り返り、滞在中に生まれた『つながり』を活かして、今後、美山とどのように関わっていくかをみんなで考えるクローズドセッションが開かれました。

まずは『居・職・住』の3つの観点で、各自が得たもの・もっと得たかったものを整理し、全員でシェアするところからスタート。

居場所やコミュニティを意味する『居』については、「美山の多様な地域性を垣間見ることができたので、もっと知りたいと思った」「ご近所同士で助け合って暮らしているというお話から、都会では失われつつある密な人間関係がしっかりと残っているように感じた」という意見が出されました。

職業や仕事に関する『職』においては、「休耕田が増えているという話だったので、そこで農業を始めるのもいいかもしれない」「仕事によってはプライベートとの線引きが難しそう。きっちりと分けたい人は仕事選びを慎重に進めたほうがいいと思う」といった意見のほか、「月々の収入の目安が知りたい」という素朴な疑問も飛び出しました。

これについては青田さんが、「何の仕事をするかによって収入は変わりますが……」と前置きした上で、

フルタイムで働けるところは限られているので、安定収入を得たいのであれば、自分で仕事をつくる、もしくは都市部に働きに出るほうがいいでしょう。

さらにもう一つの考え方として、収入を増やすことよりも、農業や狩猟のスキルを身につけるなどして支出を減らすことを目指すのもいいと思います。いずれにせよ、自分が美山でどういう暮らしがしたいかを明確にしたほうがいいと思います。

と答えてくれました。

3つめの『住』は、住む場所として美山をどう捉えたか?という問いかけです。

ここでは「想像以上に広い町だったので、ほかの地域も見てみたい」「自分の力でモノを生み出すパワーや発想力が求められる場所だと思う」「スーパーやコンビニが近くにないなど、住むには不便な面もある。

自分はよくても家族は嫌かもしれないので、移住を決める前にじっくりと話し合っておくべき」といった意見が集まりました。

『居・職・住』にまつわるさまざまな気づきをシェアしたあとは、自分と美山の『これから』について考える時間。美山との関わり方について、すぐにでも実行に移せる“Can”と、『できたらいいな』という希望的観測を交えた”Will“の2項目に分けて意見を募りました。

前者には「周りの人に美山の良さを伝えたり、今回できた人とのつながりを活かして何度も訪ねる」「移住のリサーチも兼ねて、短期バイトで働きに来る」「友人を引き連れてエコツアーに参加し、SNSで広く発信する」「ホームページ制作のお手伝いをする」「旅行代理店で務めていた経験を活かして、旅のプランを提案する」などなど、頼もしい意見が続出しました。

後者についても、「トレイルランニングやマラソン大会など、自然とスポーツの両方が楽しめるイベントを実施する」「保存食や柿渋染など古来の知恵が学べるワークショップを開く」「美山の食材を京都市内で売り出し、旅行者を美山へ呼び寄せる」など、個々の関心事にちなんだ具体的なアイディアが多数寄せられました。

これらの発言を受けて、最後に青田さんから次のようなメッセージが送られました。

ご提案いただいたなかにはすぐに実現できそうなこともあるし、担い手不足の問題などで早期の実現が難しいものもあります。また、みなさんにも今の生活や仕事があって、できることとできないことがあって当然だと思います。

こちらに遊びに来てもらうほかに、情報発信やアイディア出しなど、外にいながらでもお手伝いいただけることはたくさんあるので、みなさん各自の距離感でこれからも美山とつながりを持ち続けていただきたい。それが一番の願いです。何卒よろしくお願いします!

クローズドセッションがお開きになる同時に、第2回TWSの全日程が終了しました。参加者のみなさんが職場体験を通じて、地域や人とつながりを持てたことが何よりの収穫といえますが、サポート役の私たち京都移住計画も、みなさんと同じ時間を共有するなかで多くの気づきを得ることができました。

たとえば、美山との関わり方として出されたアイディアの種を集めれば、エコツーリズムの新しいプログラムが作り出せるのではないか? 『もっと地域について深く知りたい』という声に応えて、TWSをさらに進化させることができるのではないか?——取り組みの幅はこれからますます広がりそうな予感がしています。

そうした動きにご注目いただきつつ、気になる方はぜひ次回TWSにご応募くださいね。

もちろん、今回ご紹介した受入先を個人的にたずねるなど、独自の『つながりづくり』を始めてもらうのも大歓迎です!

Photo by Morocoshi

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