2020.10.16

行政と民間プレイヤーが力を合わせて挑む。3年目を迎えた、北部7市町・移住促進事業の現在地

京都移住計画(株式会社ツナグム)では、2018年度から京都5市2町の広域連携UIターン推進をお手伝いしています。こちらの記事では、過去2年の取り組みを振り返りながら、2020年度の活動予定をご紹介します。

京都府には15市6郡10町1村があり、府によって丹後・中丹・南丹・京都市・乙訓・山城の6つの地域圏に分けられています。そのうち丹後(宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町)・中丹(福知山市、舞鶴市、綾部市)を合わせたエリアを、北部7市町と呼び、UIターン推進事業を進めています。

京都移住計画が関わり出して3年目となる2020年度。今年度はどのような展開を考えているのか?事業を共に進めてきた福知山市役所 まちづくり推進課の寺田武史さん、株式会社ローカルフラッグの濱田祐太さん、そして京都移住計画の藤本和志の3名に聞きました。

左から藤本(京都移住計画)、寺田さん(福知山市)、濱田さん(ローカルフラッグ)

官・民の関係構築から始める!手探りの2018年度

北部7市町の枠組みではじまった事業でしたが、京都移住計画が関わりはじめた初年度は、各市町の移住担当者の入れ替わりなどもあり、横との関係性や動き方も手探りな状態でした。ましてや、「官民連携なんてどう進められるのか想像できない」なんて声も聞こえてくるほど、交流や共通認識づくりからのスタートでした。

藤本:僕たちと自治体担当者で、7市町で何をしていくのか、どういう状態をめざすのかを最初に話し合いましたよね。前年につくっていた「たんたんターン」という素敵なサイトがあっても、そのサイトを使ってどのように情報を届けていくのかがなされてないと、人が来ない。移住につながる動きや結果が見えない。そこで広告など消費型の事業に頼るのではなく、発信力がある7市町にUIターンした民間プレイヤーと組んで、北部ならではの移住支援のあり方を模索していくことになりました。

寺田:私は以前は危機管理の部署で目的や計画が明確にあって動く仕事をしていたので、7市町事業の進みながら考える、答えやゴールがない事業を担当することになり、正直最初は戸惑いは大きかったです(笑)

行政担当者向けのワークショップ。1年目は、担当者の関係性づくりからスタートし、できることを模索していった。

藤本:寺田さんだけではなく、7市町の自治体担当者の多くがそう感じられてたように思います。2017年までにつくられていたWEBサイトや印刷物などのアウトプットがあればわかりやすい。しかし、UIターンした人たちと事業をつくっていくことはイメージを掴んでもらうまで、予想以上に時間はかかりました。みなさん、各市町や民間プレイヤーと協働したい気持ちは持っていましたが、そもそも7市町の自治体移住担当者同士や、自分の町のUIターン者に気軽に連絡したり相談することが、普通ではなかった気がします(笑)

寺田:福知山市は移住支援もはじめたばかりの時期で、何から取り組めばいいのか正解がわからない。隣町の担当者にどんな風に聞いたらいいのかって。藤本さんは気軽にそう言ってくるけど、行政のこれまでのやり方からその発想がなかなか自分の中でもてなかったのかもしれません(笑)

藤本:実現したいイメージは持っていましたが、僕たちが全てを決めて実行するのでなく、あくまでも7市町担当者が当事者として決めていくプロセスを大事にしていました。
なので、「一緒に考えながら進んでいきましょう」というスタンスでいました。自治体のみなさんと関わって、民間の人を巻き込んで何かをつくる。言葉として、官民連携というのは簡単ですが、実際はとても難しいことだと実感した一年でもありました。

寺田:地域のプレイヤーにヒアリングへ行く時も、「目的がないといけない」、「何か決めないといけない」と思い込んで、気軽に声かけすることもできなくて。初年度で緊張していたのはありますが、ただ話をするだけなのに、すごく仰々しくなってしまっていました。

藤本:糸口になったのは、京都北部7市町として東京で移住イベントをしたことでした。舞鶴市Uターン者の大滝さんと綾部市Iターン者の工忠さんをゲストに呼び、イベントに参加される方に、どうやったら現地に来てもらえるか考え、工忠さんが取り組む「天職観光」を広域に広げようとした動きですね。綾部と舞鶴の地域横断でプログラムを実施することで、それぞれの町の特徴を活かし合うこと、民間が活動することが移住の一歩につながることの、7市町でめざしたいイメージを共有できました。

事業を通して出会った舞鶴のまちづくり団体「KOKIN」と連携し、地域横断の移住ツアーを実施。東京から6組が、北部を訪れた。

寺田:そうですね。他にも自治体とUIターン者や民間事業者が混ざったワークショップを何度か重ねたことで、少しずつ進め方やスピード感を覚えていきました。行政は、始まりと終わり、目的と結果をはっきりさせて物事を進めるので。やりながらつくる感覚が、少しずつわかった気がしました。

各市町にコーディネーターを置き、官民連携の一歩を踏み出した2年目

2018年に実施した地域プレイヤーへのヒアリングを経て、地域の方々にも関わりをもていただけるよう七市町連携のテーマを「プレイヤーの移住施策への参画」に決定。各市町にコーディネーターを一人ずつ置き、自治体と民間をつなぐ役割をしてもらいながら動いていくことになりました。そこで声がかかった一人が、与謝野町をフィールドに活動する、ローカルフラッグの濱田さんでした。

藤本:まちの未来を背負って動ける人を探した時、濱田くんの名前が上がりました。当時はまだ学生でしたよね。

濱田:そうですね。ちょうど与謝野町で起業しようと、Uターンを考えていたタイミングでした。移住定住に関心がありましたし、各市町の民間プレイヤーで担える人は地域の未来に必要だと思ったので、関わることに決めました。

藤本:コーディネーターのみなさんで実行委員会を組んでいただき、月1回オンラインで打ち合わせしたり、先進事例を学ぶためのワークショップを開催しましたね。話し合いの中で、何かしら事業化できるものに取り組んでいこうと、今年度につながる方向性が見えました。その前身として2019年度に実施したのが、「京都北部プロジェクト博覧会」です。

京都・四条烏丸で実施した「京都北部プロジェクト博覧会」。100名以上が参加し、交流する場となりました。
濱田さんは、仕事を通して地域と関わる「ふるさと兼業相談所」を担当。移住に関心ある層に、都市部で暮らしながら北部7市町に関われる仕事の案内をしました。

藤本:自治体やコーディネーターの人たちが共に移住イベントを運営する機会になり、官民連携の足掛かりになりましたね。お二人にとっては、どんな年度でしたか?

濱田:この事業をきっかけに、各市町のコーディネーターの人たちや行政のみなさんともつながれたので、これからいろんなことがやれそうだなと楽しみになった一年でしたね。

寺田:2年目もまだまだもがいていました。濱田さんをはじめプレイヤーのみなさんは、芯が通っています。でも自治体は、担当者が変わることもありましたし、事業でやっていることをうまく周りに説明できずに、理解を得られないこともあり、悔しい気持ちの時もありました。

寺田:「京都北部プロジェクト博覧会」に運営スタッフとして関わりましたが、コーディネーターのみなさんの企画力や推進力に圧倒され、イベント終了後に「僕らもっと頑張れたんじゃないかな・・」と何人かの自治体の声が聞こえていました。そこから「僕たちも変わらないと」と意識が変わったのはありましたね。

藤本:良くも悪くも曖昧さを大事にしながら進んできた事業でしたが、2年目は一つのコンテンツを官民連携でつくり出すことができた年でした。まちの大きさも住民数も異なる中で、広域連携をする難しさはたしかにあります。しかし、イベント運営を通して、自治体のみなさんにも、北部ならではの移住支援のイメージを掴んでもらえたのではないかと考えています。

事業づくりにチャレンジする2020年度

広域連携や官民連携の難しさを感じる一方で、自治体・民間それぞれの意識が変わり北部7市町の可能性も見えてきた2019年度。そして3年目となる今年度チャレンジするのが、事業づくりです。

藤本:事業をはじめた頃に比べて、行政の移住支援施策も充実しました。相談窓口も開設され、田舎暮らしをしたい層のニーズに応えることができるようになっています。一方、起業したいとか、小商い的に仕事をつくりたいとかといった層への対応は、行政の得意とするところではありません。地方の仕事づくりについては、UIターンしたプレイヤーが得意。そこで、これからの移住施策としてどちらの対象者ニーズにも合わせられるように、行政と民間それぞれの役割と得意を分けて、北部7市町ならではの移住支援の形をつくろうとしています。

藤本:民間が活動する延長が結果的な移住につながる取り組みを考える中で生まれたのが、4つの分科会です。「起業・事業承継」、「観光・ワーケーション」、「まちの人事部」、「コミュニティづくり」に分かれ、自治体も民間も混ざり合いながら事業化に向けて動いています。

濱田:通常、行政と仕事すると言えば、委託事業を受けて、行政の担当者として接することになります。でも今回は、行政と民間で役割分担して一緒に進めていく。今年度どこまで形にできるかと試行錯誤しながらではありますが、2021年度以降、7市町全体の施策が変わることにつながるんじゃないかと、期待しています。

藤本:具体的に役割分担がイメージできていることはありますか?

濱田:僕は「起業・事業承継」チームとして活動しているのですが、例えば、起業したい人を集めて育てるのは民間で担当し、そこに行政の地域おこし協力隊などの制度や補助金を組み合わせていくと、人材の受け皿として強いだろうと考えています。

藤本:なるほど。寺田さんはどうでしょうか?

寺田:いつも発注者として民間に関わりますので、一緒にプロジェクトをつくるスタンスは新しいです。プロポーザルに業者が入札して、はじめましての人と組むことが多いのですが、7市町の分科会は、人となりや事業背景を知っている人たちとチームを組めるので、楽しみですね。ただ民間のスピード感と一緒にうまく進めていけるかどうか多少不安もあります・・

藤本:少しずつ変わっていけたらいいのではないでしょうか。ここ数年、僕たち民間側と関わったこと、コロナで移動がしにくい影響もあり、対面・電話メールの連絡が主だった自治体さんも、オンライン・ZOOMやSlackでのやりとりに前向きになってくれていますよね。いざ使ってみるとすごく便利でもっと早くやっとけばよかったとの声も聞きます。同じように、民間のリズムや、やりながら形にしていく進め方を掴んでいただき、今後の自治体施策にもうまく取り入れ、いかしていけるといいのではないかと期待しています。

北部7市町を広域連携のモデルに

2018年度から関わってきた北部7市町の事業は、今年が最終年度になります。それぞれどのようなゴールを描いているのか、最後に教えてもらいました。

濱田:「北部7市町はおもしろい取り組みをしているな」と、外部の方に思ってもらえるようになりたいです。そのためにも、4つの分科会それぞれがしっかり活動して、成果を出していく必要があります。2021年度以降は、本事業で生まれたタネが芽吹き、つづいていけるようにしたいですね。

寺田:僕はですね、このモデルが全国に広がって、「広域連携は北部7市町からスタートしたんだぞ」と言えるくらいを目指したいです。行政として同じ事業に予算をずっと投資できず来年度以降、もしかしたら今年と同じような形で7市町事業として取り組むことは難しいかもしれません。ただこの流れを活かし分科会の一つを福知山市で取り上げて、民間と一緒に事業化する動きをつくれてもいいだろうなと思います。

藤本:一つは各分科会が、来年度以降、自主事業として自走できる状態を目指したいです。小さくてもいいので、キャッシュポイントをつくるところまで持っていけたら。もう一つは、行政と民間の動きをうまく掛け合わせなが事業や施策がつくれる関係性を築くことです。分科会のように、それぞれだからできる役割をを担えたら、まちとしてできることや可能性はもっと広がっていくんじゃないでしょうか。

京都移住計画が関わり出してから3年目(最終年度)を迎えた、北部7市町のUIターン推進事業。2020年度は、北部らしい移住支援施策をつくるため4つの分科会の事業化を目指します。一般向けイベントなども予定していますので、進み始めた京都北部ならではの移住施策に関わりたい方・巻き込まれたい方はぜひご参加ください。

《起業・事業承継(ローカルベンチャー)分科会チーム》
京都府北部にて、創業や家業の事業承継を考える野心あるU・I・Jターンを促進する。移住前の接点づくりや育成の場を整備することで、U・I・Jターンの促進と、移住後の活躍につなげる。

▼海の京都ローカルベンチャースクール プレイベント
日時:10月31日(土)16時〜18時
場所:オンラインzoomを予定 / 現地:福知山市民交流プラザ
対象:京都北部での創業や事業承継等を検討している若者
詳細:https://uminokyoto.peatix.com/

《まちの人事部分科会チーム》
京都北部の求人企業さんと一緒に「職住」の受入体制づくり、移住人材の採用強化、移住×企業での企画ネットワークづくり等、都市部人材向けに攻める採用をする企業を増やす

▼京都北部企業との働き方交流会(仮称)
日時:11月28日(土)午後を予定
場所:オンラインzoomを予定
対象:京都北部での働き方を考えたい方、ユニークな企業に出会いたい方、就職や転職・移住などを考えられている方
詳細:京都移住計画・ローカルフラッグSNSなどにて広報

《コミュニティづくり分科会チーム》
京都市内を中心に、都市部に住む京都府北部にゆかりのある若手でコミュニティを作り活動する。それにより日常の中で京都北部との接点を増やし、人やモノの流れを円滑にしていく。

▼Kuranami in Kyoto (仮称)
日時:11月下旬の休日で調整中
場所:京都市内
内容:「北部の地酒と食材を知って、楽しんで、伝える」という活動テーマから、コミュニティのメンバーで京都北部の地酒と食材を販売。コミュニティの活動に興味のある方、京都北部出身の方、京都北部の地酒や食材に興味のある方ぜひお越しください。
詳細:All Tango ActionなどのSNSで広報予定

《観光分科会チーム》
新しい観光のスタイルである天職観光。独自のライフスタイルをしている方に会いに行き自分の暮らしを見つめ直す旅。またそういった方と関係を作り移住に興味がある方には空き家見学と観光案内も行います。

※京都北部天職観光ツアーなどを企画調整中

執筆:北川由依

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