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京都には、季節ごとの行事やならわし、風物詩がたくさん存在しています。このコラムでは、1年を春夏秋冬の4つに分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気(にじゅうしせっき)」にあわせて、京都移住計画に関わる人たちの等身大の京都暮らしをお伝えします。
京都の美味しいお店や、知られざる紅葉の名所、有名なお祭りの意外な楽しみ方など、京都専門の書き手としていろんな記事を頼まれてきたが、天一について書いてくれと言われたのは初めてのことである。
大好きなラーメンのことについて書くだけで原稿料をいただけるそうだ。しめしめ。
……と思ったのもつかの間、はて、何を書いたら面白いだろうかと立ち止まってしまった。なにしろ、忙しい時間の中でわざわざクリックして天一の記事を読むような方は、よほどの天一ファンか、単なる暇人か、そのどちらでもあるような人に限られる。
中学生のときに先輩におごってもらって天一の「こってりラーメン」を生まれて初めて食べて衝撃を受けて以来、そのやみつきになる旨さから離れられずに約30年。そんな天一ファンのはしくれとして、何を書こうか。
ふーむ。
天一のこってりラーメンが生まれた時代は、中華そば風のあっさりラーメンが盛況で、それをイメージさせる「京風ラーメン」という言葉があった。四条河原町に面した阪急百貨店(もうないけど)のレストランフロアにも、屋号に京風と冠したラーメン屋があった。
もう1つの流派は「ますたに」「第一旭」に代表されるような豚骨醤油ラーメンであり、若者やおっちゃんに熱烈に支持されていた。そんな時代に創業者の木村さんが苦心して自分なりの味を、と生み出したのが鶏ガラと野菜を用いた「こってりラーメン」なのだ。
初日は11杯(まさに10テン+1イチ?)の売上だったそうだが、自分の舌に間違いがないと信じて努力を重ね、着実にファンが増え、創業当初から支援してくれた石材屋の社長さんが「屋台ではなくここで腰を据えて商売をしてみなはれ」と提供してくれた場所が今の北白川総本店となった……というような歴史話は誰もが知っているしなぁ。
ふーむ。
天一では「こってり」と「あっさり」を合体させた「こっさり」ラーメンも美味しく、長年裏メニューだったものがファンの後押しにより「屋台の味」として定番メニュー化したことや、「1号線下鳥羽店」にだけ、鶏のもも焼きという絶品メニューがあることや、麺はこってりスープに負けないよう多重加水という特別な作り方をされていることや、本社の中でもスープの作り方は本当に門外不出であり、創業家などごく数名しか知らないこと、万が一事故にあったらレシピの秘密が永遠の秘密になってしまうため、レシピを知る者たちは出張の際も同じクルマや電車に乗らないこと、かつては本店だけだった「こってりスープ増し」は今や多くのお店で楽しめるようになったこと、持ち帰りラーメンのスープを使って野菜を煮込むと最高に美味しく、「天一スープのちゃんこ鍋」が京都人の冬の密かな楽しみになっていること、天一ファンは知ったかぶりで「店によって味が違う」と自信満々に言うが、チェーン店なのだからそんなことはないと思いきや、実は本当に店によって味が違うので本部の方は同じ味に保つために大変な努力をされていることなど、数えきれないほどあるのだが、こんなことは天一ファンならご存知だろうから、あえて書くほどのことでもないか……
忘れもしない、10月1日。天一の日は、並のラーメンを1杯頼むだけで、帰りしなに並ラーメン1杯の無料券がもらえるというサービスしすぎな1日であり、新しく手帳を買って真っ先に書き込むべきで、さらには抽選で景品も当たる。全国で万単位のお客さんが詰めかける恒例行事であり、いつの日か京都三大祭の仲間入りをするかもしれない。こんなことも、書くまでもないことである。
うーん、何を書こうか。
天一が好きすぎて、答えが出ない。
藤田 功博
京都市生まれ。京都大学在学中に観光企画会社 「株式会社のぞみ」を立ち上げ代表取締役に就任し、20年以上、京都に特化して独自性の高いツアーやイベントの企画を行っている。無類の麺好きではあるがフニャフニャ麺が苦手なため京都のうどんはほぼ食べず、ラーメンも麺固い目を好む。趣味はオセロとテニス。好きな言葉は「すべてはタイミング」。
執筆:藤田 功博
編集:北川 由依