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京都の日常を彩る食を訪ねる「食を巡る」シリーズ。京都らしい食べ物や飲み物、京都移住計画メンバーのお気に入りの一品をご紹介する連載コラム記事です。食べることは生きること、京都での暮らしに彩りを与える物語をお届けします。
JR亀岡駅より車で10分ほど。奈良時代初期に創建したとされる走田神社(はせだじんじゃ)の向かいに、1台のキッチンカーが停まっています。食を巡る第27弾にご登場いただくのは、亀岡の新名物お菓子「かめやき」を手がける「丹波亀吾郎」。のびのびとした自然を前に、地元の食材をふんだんに使用したお菓子を提供しています。
自信を持って届ける。亀岡の素材にこだわった「かめやき」
かめやきとは、薄焼きの生地につぶあんや季節の餡などをたっぷりと入れた、亀の形をしたお菓子。
店主である辰巳雄基さんと留衣さんは「小麦本来のおいしさを伝えたい」という思いで、生地に卵や牛乳を使用せず、南丹市で友人の農家さんにより自然栽培で育てられた小麦と少量の塩だけでシンプルに仕上げています。
かめやきに使用するのは、全て地元と繋がりがある食材。実際に農家さんに足を運び、食材を選んでいるそう。定番商品のつぶあんは、地元の丹波大納言小豆を使用。春にはその日に収穫したヨモギを使ったよもぎ餡や、うぐいす餡、夏はずんだ、秋は丹波栗、そして冬には焚き火でじっくりと焼いた紅はるかなど、季節ごとに旬の食材を使用した、期間限定のかめやきも手がけています。
「旬というのは本当に短い。あっという間に終わってしまうからこそ、美味しい食材を美味しいときに身体に取り入れてほしい」と話す雄基さん。無農薬や有機栽培などが注目されている昨今ですが、「かめやきは”美味しいから食べる”を入り口にしてほしいなと思います。気づいたら虜になって、『この食材は地元で作られているんだ』と知ってもらえたら嬉しい」と続けます。
かめやきは一匹ずつ焼き上げる一丁焼きスタイルで、じっくりと時間をかけ、サクッとした生地に仕上げています。「走田神社の亀をモチーフに、亀岡に工房を構える陶芸家の松井利夫さんに型を作ってもらったんです」と嬉しそうに話す雄基さん。
「素晴らしい田園風景の中、この土地の農業や自然、歴史を想像して食べてもらいたいですね」
地域に根ざしたお菓子を、たくさんの人に届けたい
亀岡にある社会福祉法人が運営する美術館「みずのき美術館」のキュレーターをしている奥山理子さんとの出会いがきっかけで、今から10年ほど前に亀岡に移住した雄基さん。移住後は福祉の仕事をしつつ、亀岡に新たにできるカフェの改装を手伝うことに。メニュー開発やイベントを通して、地元にたくさんの農家さんがいること、そして、さまざまな考えのもとで野菜を育てていることに気づき、彼らが紡ぎ出す素晴らしい食材を使用して、亀岡で食べられるお菓子や他の地域に持っていけるお土産を作りたいと思うようになったといいます。
そんな中で、亀岡を拠点にHOZUBAGを手がけている株式会社シアタープロダクツの武内さんに声をかけてもらい、地域に根差したお菓子を作ることになりました。
「実は『かめやき』というのは、昔に存在していたらしいと、武内さんに教えてもらいました。亀岡近郊の農家さんの食材で特別なかめやきをつくれるかもしれないと、ドキドキした気持ちになったことを覚えています。 せっかく亀岡土産を作るなら、亀の形をしたお土産がいいなと思い、亀岡にある亀の形から原型を作りたいと 調査していると、走田神社に昔から鎮座する亀の神様に出会ったんです」
小豆は亀岡の名産品、小麦も近くで農家さんが育てているという条件も相まって、小豆や小麦が収穫され、準備が整った2022年10月に丹波亀吾郎をオープンしました。
丹波亀吾郎を訪れるのは、老若男女さまざま。親子連れ、カップル、友人、仕事仲間など、亀岡に住んでいる方だけでなく、わざわざ遠方から足を運ぶ方も。
「あんこ嫌いな子どもが、『ここのあんこは食べられる!』と言ってくれたり、毎週買いに来てくれる方がいたり、地元の人に知ってもらえているなという嬉しさがありますね。近所の子が手伝ってくれることもあるんですよ」
かめやきを始める前には予想だにしなかった嬉しい出来事があったそう。「近所の保育園の散歩道で、会うたびに『バイバ〜イ』と手を振っていたんです。後日、保護者の方から、保育園でかめやき屋さんごっこが流行っていると聞きました。しかも、屋台や焼き型、神社も手作りで」
その後、嬉しくなって保育園に電話をして、見に行かせてもらったそう。「かめやきの作り方を教えてほしい」と頼まれ、子どもたちが作った模型で焼き方を伝授したのだとか。「かめやき屋さんごっこは泣きそうになりましたね」と、子どもたちと遊んだときを思い出しながら嬉しそうに話してくれました。
地域のお土産で、人と人の輪を繋いでいく
「お菓子って、人類としてすごく豊かなものだと思うんです。食べなくても生きていけるんやけど、誰かにあげたくなったり、人と仲良くなってコミュニケーションが生まれたり。素晴らしい人間の営みが生まれる可能性があると思っています」と、お菓子に期待を寄せるお二人。
これまでにも、かめやきを始めたことでたくさんの繋がりができました。最近では、他の地域に呼ばれ、各都道府県の特産物を使用したかめやきを開発させてもらうこともあるのだとか。
「亀岡だけに留まらず、地域と一緒に作るお土産を全国で考えてみたいですね。私たちの食べるものや消費するものが変わっていくと、地域が盛り上がったり、地域の人たちが喜んで働ける場が生まれたり。そういうのが伝播していって、地域のものでいろんな人が生きていけるサイクルを作れたらいいなと思っています」
丹波地域の食材で作る丹波亀吾郎のかめやき。亀の形をしたお菓子には、お二人の亀岡愛だけでなく、亀岡に携わる人々や気持ちがたっぷりと詰まっていました。全国で地域に根ざしたお土産が誕生すれば、日本の消費も変わっていくかもしれません。
走田神社のそばで、亀岡の自然を堪能しながら、かめやきを味わってみてくださいね。
『丹波亀吾郎』
住所:京都府亀岡市余部町走田2走田神社前
営業時間:[金・土・日]10:00~17:00
定休日:月〜木曜
Instagram:https://www.instagram.com/tamba.kamegoro/
夏季のみ、丹波亀吾郎の工房「亀公房」で営業。詳細はインスタグラムより
執筆:むなかたりょうこ
編集:藤原 朋
CHECK OUT
初めてかめやきを口にしたとき、「こんなにもあんこたっぷり!」と驚いたのを覚えています。一口でずっしりと広がるあんこ。1つ食べ終わると広がる満足感と幸福感。「ああ、またこの季節が来たんだな」と旬の野菜を食べられることに嬉しさを感じるように、季節ごとに限定メニューが販売されるのもかめやきの楽しみ方。次はどんなかめやきに出会えるだろう。筆者も楽しみでなりません。