2023.02.24

海の京都・宮津の風土や文化を体験しよう。新しい農泊のカタチ「みやづくしの宿」

京都北部に位置し、日本三景の一つ「天橋立」を有することで知られる宮津市。京都市内から電車や車で約2時間ほどの場所にあり、人口はおよそ1万7000人の小さなまちです。

若狭湾に面している立地から、古くは北前船の寄港地として栄えた歴史があります。また、一年を通して雨の日が多く、冬には雪が積もる北陸地方に似た気候です。

宮津市の中でも溝尻(みぞしり)、栗田(くんだ)、由良(ゆら)などの沿岸部では、底びき網漁や刺し網漁が盛んです。平野では農業も行われていて、お米の栽培を中心に野菜や果物も生産されています。

自然豊かな土壌に育まれた宮津市の海の幸・山の幸は、多くの食通を虜にしてきました。そんな豊かな自然環境の恵みを、観光客にも気軽に体験してもらえるようにしようと、もともとあった農泊(農家民宿)のあり方をアップデートし、新たな取り組みが始まっています。

農泊をもっと気軽に体験できる「みやづくしの宿」

そもそも、農泊とはどういったものでしょうか。

調べてみると、「農山漁村地域に滞在し、その現地での営みや暮らしの体験や地元の人との交流を楽しむ滞在型旅行」と定義されています。

ただ、一般的に農泊は個人宿として運営されていることが多く、観光客がローカルの文化や交流を楽しみたいと思っても、Webサイトを持っていなかったり、兼業のために希望する日程に利用できなかったりして、利用者にとって便利なものではありません。

そこで、宮津市では新たに農泊プラットフォーム「みやづくしの宿」が立ち上がり、2023年2月21日にWebサイトをオープン。農泊の仕組みをアップデートする取り組みが始まっています。

プラットフォームの起点となる、Webサイト「みやづくしの宿」。

運営するのは、宮津市内でレモネード専門店の運営や、レモンを中心とした、農産物の加工・販売を手がける株式会社百章。全国の金融機関に眠る休眠預金の活用した事業として立ち上がりました。

ここからは、同社の関野祐さんと矢野大地さんに、「みやづくしの宿」がどんなサービスなのか、またプラットフォームがあるからこそできるオリジナルの体験や旅のあり方を教えてもらいます。

左:矢野さん、右:関野さん

体験アクティビティまでご案内する“コンシェルジュ”として

早速ですが、「みやづくしの宿」とはどういったものでしょうか。

関野さん:「みやづくしの宿」は、京都府北部にある宮津市のローカルな文化やナリワイを体験し、宮津市を多角的に感じることのできる宿やスペースなどをまとめたプラットフォームです。今後、さらに宮津市全体へ広げていく構想ですが、まずは宮津市の一番南に位置する上宮津からスタートさせています。
上宮津には、「関野亭」と「達ちゃんち」の2つの農家民宿がありますが、これまで知り合い経由で宿泊してもらうにとどまっていました。しかも、電話やメールなどの直接連絡のみ。利用者にとってはハードルの高いものになっていたんです。しかし、今の時代はオンラインで予約・決済できることが重要です。「みやづくしの宿」では、農泊の運営者と我々が協力して、情報発信から予約受付・宿泊対応までしていきます。

農泊プラットフォーム事業の概要図

もともと宮津には、自然や伝統文化を学べるアクティビティが豊富にあります。農家民宿を営むオーナーさんの中には、これまでも宮津らしい体験コンテンツを提供してきました。

しかし、個人で運営しているがゆえ、コンセプト作り、アクティビティの情報発信、集客までなかなか手が回らないもどかしさもあったそう。そこで「みやづくしの宿」では、Web上で宿泊予約や決済を代行するだけでなく、観光やアクティビティの案内まで包括的にサポートする、いわばコンシェルジュ的な役割も担っていこうとしています。

矢野さん:プラットフォーマーとしての役割だけではなく、現地に専用窓口を設けて、宿泊施設の鍵のお渡し、拠点のご案内、注意事項の告知といった運営サポートをはじめ、観光やアクティビティの案内も行うコンシェルジュ的な役割も担っていこうと考えています。我々が農家民宿とユーザーのハブとなることで、農家民宿同士やアクティビティを提供する事業者との連携も取れて、活動の幅が広がると思うんですよね。

今後新規の人が農家民宿をオープンする場合でも、「みやづくしの宿」があることでスムーズに開業準備を整えることが可能となります。

矢野さん:Webサイトに掲載する農家民宿には、“宮津の人・体験・観光・食など、よりディープな宮津を味わえる「みやづくしの宿」”という共通コンセプトを設けて、ご紹介していきます。その上で、それぞれに特色のある宿での体験を満喫していただこうと考えているんです。

すでに稼働している「関野亭」と「達ちゃんち」の2軒を先んじて掲載し、今後は改築中の「ohashi」と、漁師さんが運営する「要丸小屋」も新たに掲載予定なのだとか。利用者の好みやニーズに合わせて、宿を選べるのは魅力的ですね。

「達ちゃん家」は短期がメインで、一棟貸しの宿としてリーズナブルに利用できる場所です。オーナーは移住者で、30年にわたって精力的に地域活動に取り組んでおられ、この地域の“顔”なんだとか。(提供:みやづくしの宿)
「ohashi」は2023年3月からシェアハウスとして運用予定で、うち一室をゲストからの宿泊予約を受け付けます。長期滞在をベースとした民泊であるため、家具・家電や日用品は充実しています。(提供:みやづくしの宿)
漁師町にある「要丸小屋」では、漁師体験や遊漁船などを体験できるため、宮津の自然資源について知りたい、持続可能なあり方について興味がある方にピッタリの施設です。(提供:みやづくしの宿)

ディープな宮津を味わえる!「みやづくしの宿」体験レポート

さて、ここからは実際に「みやづくしの宿」を利用して上宮津に滞在した場合に、どのような宿に泊まり、どんな体験ができるのかをご案内いただきます!

上宮津は、JR宮津駅から車で10分ほど。宮津市の南部に位置する人口約1,000人の小さな山間のまちで、14区から構成されています。江戸時代に遡れば宮津は玄関口で、今歩いている宮津街道は江戸につながる道だったそうです。なかには、参勤交代で上宮津から山を越えて福地山方面に移動していたという言い伝えも残っています。

上宮津のまちなみ
かつて、宮津藩主の参勤交代が通った言い伝えがある「宮津街道」

到着すると、まずは宿にチェックインします。今回、訪れたのは関野さんが運営する「関野亭」です。

(提供:みやづくしの宿)

ここは元々、書道教室として利用されていたそう。文化功労者顕彰を受賞した宮津市出身の書道家である尾崎邑鵬(おざきゆうほう)さんが主宰する「由源社」の拠点の1つで、一番弟子の方が運営されていました。

関野さんも小さい頃に通っており、「思い出深い場所なんです」と語ってくれました。今後は農家民宿として運営しつつ、書やアート作品など、宮津の歴史や文化にまつわる作品に触れてもらい、訪れたお客さんにとって楽しみや刺激を感じてもらえる空間にしていくそうです。

棚には、作家さんの器が並んでいました

のんびりお話をしていると、お昼も近くなったので、昼食をいただきました。

各拠点で提供される漁師体験や農業体験では、実際にとれた野菜やお魚を、農家民宿で調理し、いただくことができます。今回は「ohashi」の畑で大根を収穫し、「みぞれ鍋」を作りました。

特別に、畑にあった大根を収穫させてもらいました。
野菜の旨みと、みずみずしさがたっぷり染み込んだ「みぞれ鍋」。体も心も温まります。

スノーシューで天橋立を観に行く!

お腹もいっぱいになったところで、「みやづくしの宿」が提供するアクティビティの一つである「スノーシュー」を体験するため、旧大江山スキー場へ向かいます。

ちなみに、大江山とは与謝野町、福知山市、宮津市、舞鶴市の4つの地域にまたがる連山の総称。「宮津の魅力は、ずばりどこにありますか?」と質問をしたとき、真っ先に関野さんから出てきたのが「大江山」でした。

関野さん:今になって、改めて大江山は広大ですごく落ち着く場所だなと感じます。あと、元々スキー場があった場所でもあるので、小さい頃から慣れ親しんだ場所でもあります。

筆者にとっては、これが人生初のスノーシュー体験。雪のアクティビティは10年以上していないため、ワクワクしつつもドキドキという感じです。スノーシューとは、厳密には雪の上を歩行するための道具の名称なのですが、雪山や雪原をトレッキングするアクティビティを指す言葉としても使われています。

スノーシューの装着はとても簡単。スノーシューに足を乗せて、足先とかかとについているベルトを調節し固定するだけ。

旧大江山スキー場は、1953年に開設されたスキー場で、2016年に閉鎖が決定。現在は、百章や上宮津地域会議などの民間有志で、跡地を有効活用する取り組みを実施しています。スノーシュー体験もその一環で取り組まれています。

今回は、天橋立が見える「茶屋ヶ成」を目指すコースにチャレンジ。ゲレンデを歩くというだけあって、本格的な運動になりそうです。

スキー場なら、本来は場内に流れるBGMや、他のスキーヤーやスノーボーダーが滑る音などが聞こえてくるものですが、ここは誰もいない雪山。自然の音を感じながら、歩くことができます。無心になれる感じが、とてもリフレッシュしますね。

スノーシューを履いて、「茶屋ヶ成」を目指します。

途中、ぴーっという甲高い笛のような音が聞こえました。どうやら、野生の鹿の声だったみたい。他にも、動物らしき足跡も見ることができました。

動物の足跡を発見。

1時間ほど歩いて、ようやく天橋立が見える「茶屋ヶ成」へ到着。身体を動かした後に見える天橋立はいつにも増して美しく感じられました。

奥に見えるのが、天橋立。

下山した後は、「ohashi」に戻って「テントサウナ」を体験しました。この日は、雪がチラつく天気でとても寒かったため、水風呂はなしで外気浴のみ。

筆者はたまにサウナに入っても長くいることができず、いつも早めに出てしまうのですが、テントサウナは、じんわりと体が温まるからか、ずっと入っていられました。

自家製レモンを入れた鍋があり、セルフロウリュが楽しめます。
庭で外気浴。気持ちいい!あっという間に夜はふけていきました。

天橋立だけじゃない、宮津市の魅力を発信したい

2023年2月にWebサイトをオープンしたばかりのため本格運用はこれからですが、「みやづくしの宿」は複数の農家民宿や体験のハブとなり、これまであまり知られてこなかった宮津市の魅力を発信し、体験できるプラットフォームになっていくことでしょう。

最後に、農泊プラットフォームの先に描く未来や展望について、お二人に尋ねました。

矢野さん:宮津市といえば、“天橋立”という言う方がまだまだ大多数です。もちろん歴史のある、多くの人が訪れる観光地ですが、「ドーナッツ型観光地」と昔からよく言われているように、残念ながら宮津市に滞在せずに通り過ぎられてしまっています。ただ、この流れは我々のような事業者だけで変えられるものではありません。
そんな中で僕らが伝えたいのは、宮津には本当にいろいろな取り組みをしている面白い人も、天橋立以外にも魅力ある地域や自然がたくさんあるよ、ということ。宮津ならではの取り組みを、この事業を通じて発信できたらと思います。

関野さん:すでに掲載している宿以外からも、何か一緒にできないかとご相談をいただいています。連携先を増やして、みやづくしの宿の輪を広げていきたいですね。また、今後は企業研修や修学旅行の受け入れなども積極的に受け入れたいです。そうした事例を積み重ねた先に、宮津市での新規ビジネスの創出や地域課題の解決につながっていくと思います。

農泊プラットフォームを利用するターゲットは、いわゆる有名観光地に訪れたいという人ではなく、ローカルな暮らしを体験したい20代後半〜30代ぐらいの世代を想定していると語ります。

矢野さん:宿ごとに特色があるので一概に言えませんが、宿全体のユーザー像としては、20代後半〜30代ぐらいの世代を想定しています。観光地を巡りたいというよりは、地域の暮らしを体験したい、アクティビティを楽しみたい感覚の方にはまさにぴったりの環境かなと思います。

関野さん:まずは一度宮津を訪れて、どんな人がいるのか目で耳で感じてもらいたいです。

「みやづくしの宿」を利用することで、地域の人との交流機会も増えそうです。(提供:みやづくしの宿)

今回、農家民宿のガイドやスノーシュー、テントサウナなどのアクティビティ体験を通して、宮津の人、取り組み、自然などの魅力に気づくことができました。

せっかく地域を訪れたけど、ベタな観光地や飲食店に行っただけで終わってしまった。もちろん、そんな旅も素敵。だけど、せっかくなら「また、次あの人に会いに行こう」「あの取り組みに参加しに行こう」、そう思える旅はもっと素敵ですよね。

ぜひあなたも、天橋立だけではない宮津市の魅力を、「みやづくしの宿」を通じて味わいにいきませんか。

Webサイト:みやづくしの宿

お知らせ

「みやづくしの宿」のリリースを記念して、“みやづくしの宿 公式LINE登録して、宮津のこだわりの品を貰っちゃおう!”キャンペーンが始まっています。

「宮津湾で獲れた、この時期限定の天然真牡蠣とトラエビのセット」「宮津湾の海底クレイを使ったSAPOオリジナル石鹸セット」など豪華賞品が12名様に当たるとのことですので、興味のある方はぜひご登録ください。

募集期限:2023年2月28日23:59まで
詳細:「みやづくしの宿」公式note

編集:北川由依
執筆:俵谷龍佑

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