募集終了2022.10.06

暮らしを楽しみ、探求しながら。移住支援と地域コミュニティづくりに携わる

 京都府の日本海側に位置する京丹後市。公共交通機関を使って最短でも2時間ほどかかる、けっして近いとは言えないこの土地の魅力に惹かれ移り住み、地域に根差して活動するプレイヤーが年々増えつつあります。

今回訪れたのは、京丹後市の中心部に位置する峰山町。市役所本庁舎があり、住宅やお店も多いエリアです。京丹後鉄道の峰山駅から3分ほど歩くと、元材木店の空き家をリノベーションした一般社団法人「丹後暮らし探求舎」の建物が見えてきます。ガラスの引き戸をがらりと開けると、代表理事の坂田真慶(さかた・まさよし)さんと移住相談員の小林朝子(こばやし・あさこ)さんが出迎えてくれました。

2019年2月にこの場所に拠点を構え、京丹後市の移住支援や地域コミュニティづくりを中心に活動する丹後暮らし探求舎。今まで坂田さんと小林さんの2人で運営してきましたが、丹後の地域コミュニティに可能性を感じており、一緒に活動する仲間を募ることになりました。自身も移住者である2人に、移住した背景や丹後の魅力、これまでとこれからの活動について、お話を伺いました。

生き生きと暮らす丹後の人々に引き寄せられて

坂田さんと小林さんは、2人とも京丹後市にはもともとゆかりのないIターン者。東京都荒川区出身の坂田さんは2017年に、北海道旭川出身の小林さんは2015年に、丹後の魅力に惹かれて移住しました。

坂田さんの移住のきっかけは、東京から京都に移住したい人をサポートする京都移住コンシェルジュとして、たびたび丹後を訪れていたこと。「友人もたくさんできたし、住んだら楽しそうだし、何か面白いことができそうだな、くらいの気持ちで引っ越してきました」とさらりと話します。

坂田さん

学生時代には数ヶ国に留学し、卒業後も人材会社で海外事業の立ち上げに携わるなど、海外経験が豊富な坂田さん。ローカルにも関心が高く、日本各地の地域事業者を訪問したり、福岡県で地域おこし協力隊として活動したりと、多くの地を訪れてきました。そんな坂田さんが、たどり着いた場所が丹後だったのはどうしてでしょうか。

「丹後には『引っ張る力』が強い人が多い気がします。地元の人から『とりあえず住んでみないとわからないんじゃない?』と言われたり、友人から『この家が空いているから住んだら?』と紹介されたりして、ウェルカムな空気を感じました。きっと、自分が住んでいる地域に満足しているから、外の人にも勧められるんじゃないかな」(坂田さん)

丹後の人たちの「引っ張る力」は、小林さんが移住を決める時にも感じたと言います。

「最初のきっかけは、丹後の田舎暮らし体験をテーマにした1泊2日のイベントにたまたま参加したこと。そのイベントで知り合った人たちから、飲み会に呼んでもらったり、『丹後を案内するよ』と誘ってもらったりして、何度も訪れるようになりました」(小林さん)

小林さん

京都市内で働いていたものの、訪れる機会が少なかった日本海側に対しては、ややネガティブな印象を持っていたという小林さん。「サスペンスで出てくる海」「少子高齢化が進んでいて、排他的」といったイメージが、丹後を訪れた時に覆されたと振り返ります。

「まず沖縄みたいにきれいな海を見て衝撃を受けました。それに、出会った人たちがみんな明るくてポジティブで、自分たちでイベントを開催したりして、すごく生き生きとして楽しそうだったんです。丹後に通ううちに『ここにいる人たちと、ここで暮らしたい』という気持ちがどんどん湧き上がってきました」(小林さん)

丹後に通い始めて3ヶ月ほど経った頃、小林さんは住む家と車を紹介してもらったそうです。「でも貯金もないし……」と迷っていたところ、今度は「京丹後市が移住支援員を募集する予定だから、やってみないか」という話が舞い込んできたと言います。「このタイミングで移住しなかったら、私はいつどんな条件がそろった時にイエスって言うんだろう」。そう思った小林さんは、会社を退職して丹後に移住する決意をします。

「今までは、みんなと同じように受験勉強をして大学に行って、就職して、世間の流れに乗っていくことに何の疑問も持たなかったけど、そんな自分を変えたいという思いもありました」(小林さん)

「やってみたい」を後押しする土壌

こうして丹後に移住し、京丹後市の移住支援員として働き始めた小林さん。最初の3年間は市の嘱託職員として、4年目からは丹後暮らし探求舎の一員として、市からの外部委託で移住支援に携わっています。

「ちょうど坂田くんが移住してきて、法人を立ち上げるタイミングだったので、移住支援も事業に加えてもらって、一緒にやろうということになりました」(小林さん)

ちなみに、「丹後暮らし探求舎」という名称は、2018年は活動名として、2019年からは法人名として使っているそうですが、この名前にはどんな思いが込められているのでしょうか。

「そのまま『暮らしを探求したい』という、ひねりのない名前なんですけど(笑)。暮らしって誰にとっても大事なものだし、『どう暮らしていくか』と『どう生きていくか』は同じこと。教育も福祉も仕事も、暮らしの中に含まれているので、いい名前だったのかなと思っています」(坂田さん)

「でも俺は暮らしをずっと模索中だけどね」と坂田さんが笑って付け加えると、「ずっと現在進行形だよね。誰にとっても」と小林さん。丹後で暮らすことの魅力について、2人はこんなふうに話してくれました。

「このまちは余白があるのが魅力。季節ごとに違うことを感じるし、新たな発見がすごく多いから、感性を刺激されて、新しいことをやってみようという気持ちや新しい出会いが生まれる。副業で何かを始める人や、アマチュアから入ってプロになっていく人も多いです」(坂田さん)

「『とりあえずやってみる』ができるまちだと思います。都会だったらできあがったものにお金を払って楽しめるけど、田舎だとエンタメを享受したくてもなかなかできないから、自分たちで作るしかない。だから、アマチュアでも自らイベントを企画するとか、自分で作り出す能力が高い人が多いですね」(小林さん)

まちに余白があり、「とりあえずやってみる」ことが受け入れられる環境だからこそ、自ら作り出そう、チャレンジしてみようという人が生まれてくるのでしょう。そうやって地域に根差して活動するプレイヤーが育っていく土壌は、どのようにして育まれてきたのでしょうか。

「いろんな人がいろんな形で、ずっと耕しつづけているからじゃないですか。ミクタン(地域体験型の交流イベント『mixひとびとtango』の愛称)やローカル新聞『ねこじゃらし』など、地域をエンパワーしている人がいて、それに触発された人たちが来て、またエンパワーして。そんな土壌づくりを20年くらいずっとつづけて、人のつながりを作って積み上げてきたからだと思います」(坂田さん)

人生の節目に立ち会う、移住支援の仕事

ここからは、丹後暮らし探求舎の事業の一つである移住支援について、詳しくお話を伺います。移住支援とひとことで言っても、移住前の地域案内や物件探し、移住後の相談など、サポートの内容は多岐にわたります。

「まずは、移住を考えたきっかけや、叶えたい暮らし、家族構成や出身地などをヒアリングします。その上で、話が合いそうな人や良い刺激を受けそうな人を紹介することが多いです。人付き合いでも合う・合わないがあるように、その地域によって合う人・合わない人がいると思うので、ミスマッチが起こらないように判断材料を示していく感じですね」(小林さん)

移住という人生の一つの節目に立ち会うからこそ、やりがいも大きいと小林さんはつづけます。

「例えば家族で移住するとなると、夫婦の意見をすり合わせて、それぞれの両親の同意を得て、子どもの環境も考えて、といったハードルがありますが、悩んだ時に友達や親よりも先に相談される立場にいるんですよね。だから、すごくやりがいのある仕事だなと思います。これまでの生き方やこれからどんなことをしたいかなど、たくさんお話をするうちに、本当に自分の友達みたいになって、移住後もプライベートで会える関係になることが多いです」(小林さん)

そんな小林さんの言葉に、「友達がどんどん増えていくよね。仕事上でコミュニケーションを取っているんだけど、その後にだんだん暮らしの関係になっていくから」と坂田さんも大きく頷きます。

さらに小林さんは、移住希望者を案内することで、地域の人たちにとっても新しい発見があるようにしたいと語ります。

「私が長い付き合いでいろいろなことを話してきたと思っている人でも、新しい人を連れて行ってお話をすると、今まで知らなかった一面にふれられることがあるんです。新しく来てくれる人によって、まちの雰囲気や関係性が少しずつ変わるので、この仕事は飽きないし面白いなと思います」(小林さん)

移住を検討している夫婦の住まいの候補として大宮町森本区の方に空き家を案内してもらう
弥栄町にある「キコリ谷テラス」の秋の収穫祭を、移住検討者と共に楽しむ
丹後町上山区へ草木染めに興味のある移住相談者と、草木染めと農業を営むご夫婦を訪ねる

地域を温める、コミュニティづくり・場づくり

移住支援をつづけてきた中で、移住後のコミュニケーションの重要性も実感したという坂田さん。丹後暮らし探求舎のもう一つの事業の軸である地域コミュニティづくりについて、こう説明します。

「移住者や地域の人たちとごはん会をしてつながりを作るなどの働きかけはこれまでもしてきましたが、やっぱり受け入れる地域側をもっと温めていかないといけないと思っています。今住んでいる人たちが地域を面白いと思えるようになれば、自ずとU・Iターン者も増えるはず。そう考えて、網野町島津の移住サイトを制作した際には、ただwebサイトを作るだけではなく、ワークショップや畑づくりなども企画・運営しました。その流れで、もっと京丹後市全体で地域を温めていこうということで、今年6月からは市の地域コミュニティ推進課と協働してコミュニティづくりに取り組んでいます」(坂田さん)

現在は、各自治体の区長や地域団体にヒアリングを行い、一緒に企画を考えながら、場づくりやプロジェクトづくり、事業の伴走などを進めているそうです。

また、地域コミュニティのための場づくりの一つとして、2021年10月には丹後暮らし探求舎の事務所に隣接するスペースに、まちまち案内所をオープン。地域の人たちや移住者、観光客など、大人から子どもまで誰でも気軽に立ち寄れるようにと、カフェやコワーキングスペース、ものづくりスペースなどさまざまな機能を備えています。

「もともとは、材木屋の倉庫だった場所を地域のみなさんに手伝ってもらって片付け、イベントスペースとしてとして使えるようにしていたんですけど、『自由に使ってください』と言っても、空っぽの空間をうまく使える人はそんなにいなくて。みんなが気軽に来られるようにするにはどうしたらいいだろうと2~3年間考えあぐねていました」(小林さん)

場づくりが大きく動き出すきっかけになったのは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた全国一斉休校の際に、子どもたちの見守りのためにスペース開放を始めたことでした。

「最初の1週間くらいは、私と坂田くんだけで必死でやっていたんだけど、だんだんお母さんたちや地域の人も手伝いに来てくれるようになって、保護者同士のコミュニケーションも生まれてきて。そんなシーンを見ていると、やっぱりみんなが自然に集まれる場が必要だなと実感したんです」(小林さん)

暮らしと仕事がゆるやかにつながっていく

こうして動き出したまちまち案内所のプロジェクトは、クラウドファンディングの目標も達成して無事オープンし、間もなく1周年を迎えます。

「この場ができたことで、移住の話だけでなく、地域の人たちの仕事や暮らしといった総合的な相談に乗る機会が多くなりました。最近はイベントやサークル活動も増えてきているので、今後はもっと場として機能させていきたいですね」(坂田さん)

15会の様子
坂田生誕祭の様子、今年もやります!

まちまち案内所から生まれたつながりから、新しいプロジェクトも動き始めています。その一つが、京都に根差した薬局グループ「ゆう薬局」との共同プロジェクト。ゆう薬局取締役の船戸一晴(ふなと・かずはる)さんが、まちまち案内所の「みんなの本棚」の本棚オーナーとして参加したことをきっかけに、新たな取り組みが始まっています。

「ゆう薬局さんでは、患者さんの課題を解決するために、薬だけでなく地域活動などの社会参加の機会を処方するといった『社会的処方』に取り組んでいます。その中で、今年5月に京丹後市弥栄町に新しい店舗がオープンし、これから地域とどうつながっていくかということで、僕たちも連携しながら一緒に場づくりを進めているところです」(坂田さん)

ゆう薬局のプロジェクト以外にも、まちまち案内所があることによって、場づくりの仕事がさらに増えつつあるのだとか。「今後はさらに人や場のつながりを増やしていって、点から線へ、線から面へと広げていけたら」と坂田さんは今後の展望を語ります。

仕事の幅も広がってきた中で、丹後暮らし探求舎では今新しい仲間を募っています。新メンバーには、移住支援の業務を中心に、まちまち案内所を起点とした地域コミュニティづくりにも積極的に関わってもらえたらと期待しているそうです。

「まちまち案内所は、新メンバーとして加わってくれる人が地域の人たちに出会えるきっかけの場にもなると思います。店番に立ってもらうことで、地域の人たちのやりたいことを聞いて、実現するためにサポートしたり人を紹介したりと、さまざまな関わりを持ってもらえるといいですね」(坂田さん)

丹後暮らし探求舎で働くのに向いているのは、どんな人なのでしょうか。

「人といることが好きな人が向いてます!仕事で出会う前にプライベートで友人になっておくことが仕事にも繋がるし、仕事で出会った人にプライベートで遊びに行ったりします。逆にオンとオフをしっかり分けたい人は、しんどいかもしれない(笑)。どこにいっても知り合いがいるし、スーパーに買い物に行ったら、会う人会う人と話していて気づいたら1時間以上経っていることもあるくらいだから」(小林さん)

すると、坂田さんは「俺は一人の時間もほしいタイプだけどね」と笑いつつ、こう付け加えます。

「出会った人たちと良い関係性を築けると、仕事を通じて自分のやりたいことも発見できるかもしれないし、趣味を仕事にしていけるかもしれない。そういう関係性を楽しめる人にとって、すごく良い仕事だと思います」(坂田さん)

暮らしと仕事がゆるやかにつながり、オンとオフの境界線が曖昧になっていく。そんな感覚を楽しめる人にとっては、最高の環境だと言えそうです。常に誰かと一緒に過ごすことが苦にならない小林さんと、一人の時間もほしい坂田さん、まったくタイプの違う2人と一緒に働くという意味でも、面白い仕事環境かもしれません。

新メンバーを迎え、次のステージに進もうとしている今、これからの丹後暮らし探求舎のあり方について、2人はどんなことを考えているのでしょうか。

「丹後暮らし探求舎の活動を通じて、自分たちの満足度が上がり、今いる場所や環境を自慢に思ったり、自分たちでそんな環境をつくってくれる人が増えたりしたらいいなと思っています。例えば、丹後で育った子どもたちが進学や就職で都会に出た時に、都会もいいけど丹後で育ってよかったと思えたり、しんどい時に丹後の人たちの顔が思い浮かんで、受け身ではなく自分自身で環境は変えられると思えたりするきっかけになる環境をつくっていけたらいいですね」(小林さん)

「地域をもっと温めて面白いことをしていくのと同時に、都会の企業や他の地域とも連携して、補完し合えるような形も模索していきたいです。都会と田舎の二者択一ではなく、暮らしのグラデーションがもう少しあると、新しい人ももっと来やすくなるし、いったん出て行った人も戻りやすくなる。暮らし方や生き方の文脈で、もっと寛容性が高まっていくといいなと思います」(坂田さん)

「暮らしのグラデーション」という言葉は、これから丹後暮らし探求舎の仲間に加わる人はもちろん、丹後に新しく関わりを持つことや、今後移り住むことを考えている人の背中を優しく後押ししてくれているように感じました。

彼らと一緒に、暮らしを探求し、居心地の良い場を作っていきたい。そう感じた方は、まずは一度丹後を訪れてみませんか?

丹後暮らし探求舎求人説明会@オンラインを開催します!

丹後暮らし探求舎の2人は今、何を大切に思い、どんな未来を描こうとしているのか。

求人説明会では、求人募集に関わる話やたんくらでの働き方の話から、記事には書ききれなかった成り立ちやこれからの活動に向けた想いや活動を、坂田さん、小林さんから、オンライン上にて直接お伺いします。

参加されるみなさんとも対話も交えながら、たんくらの活動を知り、これからのたんくらを後押しするような場にもできたらと思います。

求人募集として興味がある方はもちろん、丹後暮らし探求舎の働き方やお二人に興味がある方など、まずはお気軽にご参加ください。

日時:2022年10月27日(木)19:30〜21:00@オンライン
 ※日程都合が合わない方はアーカイブ視聴のURLをお送りいたします
お申し込み:Peatixイベントページよりお願いします
お問合せ:株式会社ツナグム 
担当:藤本・中村 info@tunagum.com

編集:北川由依
執筆:藤原朋
撮影:稲本真也

募集終了

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