募集終了2022.05.25

暮らしにそっと明かりを灯す。障がいのある人と共に、地域のおせっかい役になる

“暮らしのほんの少し先を、ほんの少し明るく灯すランプ
れは、何気ない日常の少し先にあるワクワクする楽しみなこと”

今回ご紹介する「一般社団法人暮らしランプ」のWebサイトには、そんな言葉が書かれています。

暮らしランプは、自分自身に合った働き方を探す、アートなどの創作活動をする、地域とゆるやかにつながるなど、障がいのある人が多様な選択肢から望む暮らしの選択ができるように、2017年の創業からさまざまな事業を展開しています。

障がいのある人の支援の形として、就労継続支援B型事業「こきゅう」や、生活介護事業所「atelier uuu (アトリエウー)」などの運営を行っていますが、それらはあくまで「障がいのある方々との出会いの中で、その人たちがやりたいことをどうやってやれるか考えた結果」だと、代表の森口誠さんは言います。

今回は、暮らしランプの組織の中心となる幹部スタッフ、運営する3つの事業所(放課後等デイサービス/アトリエウー/なかの邸)で障がいのある方をサポートするスタッフをそれぞれ募集します。

障がいのある方々とともに働き、暮らしに寄り添う仕事とは、どのようなものでしょうか。「暮らしのほんの少し先を、ほんの少し明るく灯す」という思いを持つ森口さんとその思いの元に集ったスタッフのみなさんから、お話を伺いました。

どんな人も「なりたい自分」になれる環境を

森口さんと障害のある人の出会いは子ども時代。一緒にアトリエに通う大切な友人がいたことにはじまります。

「10歳でピカソの絵を模写するなど、アトリエの先生たちには一目置かれているスペシャルな友人でした。だからなのか『障がいがある/ない』と分け隔てる気持ちは、ずっとないんですよね」

森口さんは高校に進学すると草花クラブに入り、アジサイの品種改良に取り組みます。そこでの経験が今の暮らしランプのあり方をつくったと振り返ります。

「障がいがある人も育てやすいアジサイを種からつくる取り組みだったんですよね。できないと諦めずに、できるように調整してお渡しするという考えは、ここからはじまったような気がします」

植物を通じて、園芸を通じて障がいがある人のケアを行う「園芸療法士」へ関心を高めていった森口さん。高校卒業後は園芸会社と社会福祉法人で経験を積んだ後、以前働いていた社会福祉事業所の利用者と共に、週末だけのカフェ「カフェ3(さん)」を向日市にオープンします。

「植物の仕事からこの業界に接していたので、『水を注ぐ』行為が 障がいのある方とすごくマッチしているなと思っていたんです。水を注ぐことができる仕事は何かと思った時に、コーヒーがぴったりだなと思って」

自分だけなら決してカフェはやっていなかったという森口さん。障がいがある人をどうにかしたいというよりも、障がいのある人たちと一緒に「純粋においしいコーヒーを提供していこう」という考えからはじまったこと。

「カフェに集う人たちとともに、いろいろな話し合いを重ねながら、一緒に『どう生きていくか』を考えていたものが、結果的に事業につながってきました。だから「暮らしランプ」は、あくまで小さなカフェにあったコミュニティーが法人格を持ったようなものなんです」

こうした思いから、森口さんは2017年に「一般社団法人 暮らしランプ」として動き出します。

「それぞれに取り巻く現状があると思うんですけど、障がいがあるから、若いから、ジェンダー差別があるからと、あきらめないとならない環境はなんか辛くて。あきらめることが少ない環境をつくれたら、ようやく『自分がどうあるか』というところに立ち帰れる。それが本来、福祉が手を伸ばさなくてはいけないところのような気がしています」

目の前にある然るべきことを楽しみながら、好きになりながら、暮らしていける場所をつくりたい。カフェをやりたいという人がいたから「カフェ3(さん)」がはじまったように、できないと思えるものをできるように調整して、どんな人でもやりたいことを叶えられる機会を生み出すのが、暮らしランプの役割だと考えています。

障がいのある人と共に、地域のおせっかい役になる

現在は5つの事業を行う、暮らしランプ。そのうちの一つが長岡京市にある飲食店「おばんざいとお酒 なかの邸(以下、なかの邸)」です。国登録有形文化財「中野家住宅」にあり、美しい日本庭園を眺めながらこだわりの出汁を使った料理や、全国各所の日本酒、自家焙煎珈琲を楽しむことができます。

障がいがあると言われても一人ひとりのやりたいことも、生活スタイルも違う。それぞれが望む環境を整えるために「障がいのある人が、夜間に就労訓練を受けることができる飲食店」としてオープンしました。

なかの邸では単に就労支援を目的にしているだけでなく、『暮らしのほんの少し先が、ほっとする出来事や時間を生み出していく』というコンセプトに沿った、身体にいいもの、居心地のいい場所を提供しています。そこには自分たちだけでなく、まちの人の心身の健康を『おせっかいしたい』という思いも込められています。

「人との関わりが希薄になり、おせっかいがどんどん減っている時代です。だからこそ、『福祉』という枠組みの中に存在する僕たちが、本当の安心感とか地域の人の心身の健康を達成するとかの実利を地域の人にもたらせたら、それが暮らしランプの価値になると思うんです」

蔵を改装し、コーヒー豆の焙煎を行っている

なかの邸で事業長を担うのは、小林明弘さん。前職の食品会社を介して森口さんと出会い、その思いに共感したことで暮らしランプに入社しました。

​​小林さんが「カフェ3」を訪れた時、脳梗塞で片麻痺の障がいがある利用者さんが、コーヒー豆の選り分け(ピッキング)に黙々と取り組んでいました。ピッキングは、その方自身がコーヒーに強く関心を持ち、自分で選択した仕事。その方がピッキングを選んだからこそ、コーヒー事業は進んでいったのだという話を聞き、小林さんは大きな衝撃を受けます。

「これまで『仕事に人をあてがっていく』ことが当たり前だと思っていましたが、森口さんは、『人に合わせた仕事をつくる』という考えだったんです。障がいのある人がやりたいことに打ち込める環境をつくることで、引きこもっていた人が家から出て仕事をはじめる。働くことで誰かの役に立ち、生きる喜びにつながる。暮らしランプは、そんな循環を生んでいるんだと感銘を受けました」

暮らしランプを通じて福祉に関わるようになり、障がいのある方の選択肢の少なさに驚いたという小林さん。多くの就労継続支援施設では、日中の決まった時間内に、書類の封入、掃除などの限られた作業内容しかありません。

そこでなかの邸では利用者の働く選択肢を増やすため、朝の10時から夜の10時半まで利用者をサポートをする職員を配置し、夜間に就労を希望する人たちも働くことのできる環境を整えました。料理の下ごしらえや盛り付け、文化財である施設の清掃や庭園のメンテナンス、コーヒーの焙煎など、それぞれの障がいの特性や興味関心、生活リズムなどを踏まえ、分業制で仕事に取り組んでもらっています。

「利用者さんができることを1つ、2つと増やしていくことを意識しています。多くのことに取り組むことが難しい人は、洗い物が好きなら洗い場、ビールを注ぐことがうまればドリンク場のスペシャリストになってもらえればいい。自分が得意なこと、やりたいことが仕事になり、それで工賃がもらえたら、仕事に行く意欲も湧くし、楽しくなると思うんです」

コーヒーの焙煎やドリップは、主に後天的に脳に損傷を受けた障がいがある人たちが担当している。

前職で経験から、店舗の運営に関する知識はある程度あったそうですが、障がいがある方と一緒に働くのははじめてのこと。そのため、最初はどう接するのがよいのか分からずに戸惑うこともあったそうです。

「いきなり大きな声を出していた利用者さんがいたので『どうしたの?』と聞くと、『昨日お母さんに怒られたんだ』って。最初は、言いたいことが全然分かりませんでした。しかし、家族構成や利用者さんが何を好きでどういうことが嫌いで……と、その人を知れば知るほど、行動から伝えたいことを判断する材料が増えていきました。むしろそれまで、人付き合いにおいて表面的なことしか見れてなかったことに気づかされましたね」

生花専任の利用者Sさん。外の音をシャットアウトして、静かな場所で 集中して生けるのが彼の仕事のスタイル。

今回、なかの邸で募集するのは「藍染めのサポートスタッフ」。利用者に寄り添いながら、藍染液の管理や染色作業、商品企画や販売に携わります。この藍染事業は、長岡京市に移転してくる病院内のカフェを暮らしランプが担うことになり、そのカフェで「着用するユニフォームを藍で染めよう!」というきっかけでスタートしました。

「自分たちで染めた物を着て接客できたらなと思ってはじめたんですが、毎日液の状態を見て、時間をかけて育てる行為は、とても福祉と相性がいいんだと気づきました。藍染めの知識を持った方が入ってくれると嬉しいですが、まずは利用者さんが取り組みやすい仕組みをつくったり、利用者さんのタイミングに寄り添いながら技術習得のサポートができる方と働きたいですね」

創作活動を通じて選択肢を増やす

創業からしばらくは、「カフェ3」や「なかの邸」を通じて、障がいのある方の就労支援を中心に取り組んできた暮らしランプ。次第に生活の支援を望む声も増えてきたことにより、京都市西京区に「就労継続支援B型事業こきゅう/生活介護事業所アトリエウー/放課後等デイサービスあくあ」の3つの事業が入った事業所を立ち上げました。

「それまでは就労による社会復帰を目指していたんですが、やはり難しい人もいる。お金を稼ぐこと以外にも、幸せにつながる選択肢が福祉の中にはあるんじゃないかと思っていて」と森口さん。

「睡眠や食事など健康に暮らすためのケアや、認知症など高齢化に対するケア。法人が大きくなるにつれて、就労継続支援B型の範囲外の生活のサポートを望まれる利用者が増えてきたんです」

そんな思いから作られたのが、創作活動を目的とした「アトリエウー」です。ここでは、障がいがある方が創作活動に集中できる環境を整えることが大切な仕事となります。絵を描くための画材を準備をするほか、 創作活動をはじめたての方には、書道や油絵など、どんな創作方法が合うのかを一緒に見つけることも大事な役割です。

夜眠りにくい、体力が余っているなど利用者によって生活習慣も体質も違うため、散歩に行く、一緒にレクリエーションを楽しむなど、それぞれに合わせたサポートを大事にしています。そのため、この仕事に大切なのは「待つ」こと。

「障がいがある人たちは、『こうやりなさい』と言われることばかりです。だから『何をしますか?」って聞いてほしいんですね。例えば物を提示して指を差すとか、メールだったら答えられるとか。そういう方法を見つけてほしいんです。決めつけて関わってしまうと、心にフタをしちゃうから」

利用者さんが描いた作品

「アトリエウー」と同じフロアにある「放課後等デイサービスあくあ」は、小学校1年生から高校3年生までの障がいのある子どもや、発達に特性のある子どもたちが「美術と遊び」をテーマに、学校のない時間に過ごすデイサービスです。

絵の具で大きな紙に絵を描いたり、粘土で好きなものをつくったり。お散歩やおでかけなどのイベントも行っているそう。それぞれの興味に応じて、デッサンや手芸に打ち込む子もいます。

児童指導員の大石麻美さんは、前職は保育士として働いていましたが、「もっと創作活動を通じて子どもたちと関わりたい」と、通信制美術大学に入り、美術の教員免許を取得しました。

「美術の教員になる道も考えたんですが、生徒の作品を成績として評価することに抵抗感があって。『子どももスタッフもやりたいことをやっていこう』と個人の表現を認め合える方針に魅力を感じて、暮らしランプに入社を決めました」

最初の頃は、言葉を発さない子や、上手く自分を表現できずに遠回りのコミュニケーションをする子も多く、表情や行動などどの部分でその子を理解していけばよいのかと、悩んだこともあったそうです。それでも、アートや創作活動を通じて自由に楽しく自己表現をする子どもたちの姿は、大石さんの心を和ませ、大きな活力になってくれました。

「こちらの予測をはるかに上回る行動をする子もいるんですが、今ではそこを一緒に楽しむことができています。『なんでそんなことするの!』じゃなくて、『おっ、そう来たか!』みたいな(笑)」

あくあで働き出して4年。子どもたちがのびのびと自己表現している姿を見守れる仕事にやりがいを感じていると言います。

「大人の目を気にせず創作活動に打ち込む姿を見ると、心から好きなことを楽しんでくれているなと感じます。子どもたちがつくった作品を見ながら、こんなところが素敵だとか、こういうとこが変化したなとか、成長を見守れることが本当に楽しいんです」

インフォーマルな支援の先に

最後にお話を伺ったのは、事務局長であり、共同生活援助事業所「colle(コル)」と居宅介護等事業「STEREO SCOPE(ステレオスコープ)」の管理者を務める松枝(まつがえ)智子さん。障がい者福祉、高齢者福祉と長年この業界に携わってきた松枝さんも、森口さんの考えに共感して暮らしランプに入社しました。

「森口さんは、時間の制約や障がい福祉サービスの枠組みにとらわれず、一緒にコーヒー入れたり、ゆっくりおしゃべりしたり。本当にその人に根差した支援とは何かを常に考えていらっしゃったんですね」

入社後は、共同生活援助事業所「colle(コル)」の立ち上げから関わり、現在は「STEREO SCOPE」の管理者としても利用者の生活の介助などに携わっています。

「暮らしランプは、制度に則らないインフォーマルな支援が多いんです。例えばcolleでは、お薬の服薬、病院の通院同行、生活の金銭管理など暮らしのうえでの援助はもちろんのこと、行政のサービスや制度をうまく使えるようにフォローもします。最初は『そこまでやるの?』って、戸惑いましたね」

ちょっとでも暮らしが楽に、豊かに過ごせるようにという心配りから生まれるサポート。しかし、手厚い支援も継続できてこそ、だと松枝さんは言います。

「福祉の現場は、チームプレーだと思うんです。1人が倒れないように、頑張りすぎないようにすることが大切です。また、利用者さんを弱者と決めつけて、ついやり過ぎてしまうことで、 利用者さんの可能性を潰してしまうところにもなりかねません」

スタッフがそれぞれの視点から利用者を見て考え、その人ごとに合わせたサポートを行います。そのためにもあえてマニュアルはつくっていないそう。

「 入ったばかりのスタッフには、『マニュアルはないんですか?』って聞かれることもあるんですが、日々利用者さんの生活は変わってきますし、マニュアルを作ってしまったらそれにはめ込もうとしてしまうと思うんです。みなさんにとっての家と同じで、グループホームは利用者さんにとってはオフの場だと思うんですよ。起きてご飯を食べて、就労支援施設へ通所する。疲れて帰ってきたのに、ぎちぎちに決められたマニュアル通りに物事を進められたら気持ちがチャージできないと思うんです。利用者さんもスタッフも、心地よい空気感の中で過ごしてほしいですね」

暮らしのランプを灯しつづけるために

創業から5年が経過し、多方面に事業が広がる暮らしランプ。2022年2月に小林さんと理事の佃知沙さんを業務執行責任者に任命し、新たな会社の形を模索しています。

「暮らしランプは、もともとコミュニティが法人になった組織なので、象徴的な誰かの1人の意見で全体が動くことがないような仕組みを持ちつづけたいんです。 これまでも、僕が引っ張ってきたのかというと、そうじゃない。 話し合いながら、それぞれのやり方でやってきているから、自分で物事を動かす力のある人たちが集まってる。今後は、そういう人たちをバックアップして、暮らしランプを社会の中で有用な組織に発展させていく役割に重きを置きたいと考えています」

今回の求人も、今後の暮らしランプを引っ張ってくれる新しい仲間を採用したいとの思いから。

「みんなの意見やアイデアを尊重して、もっと自由度の高い会社にしていきたいし、上手くいかなかった時には振り返りながら活かしていく。そういう組織体を目指していきたいんです」

森口さんは代表理事の役職についているものの、現場での権限は小林さんや佃さんへ渡し、フラットな目線で意見を現場に伝える「おせっかい」役として組織に関わるつもりなのだそう。またこれまで経営に費やしていた時間を、現場で障がいがある方たちと過ごす時間とし、改めて皆さんと一緒に過ごす楽しさやよろこびを感じているそうです。

「この仕事の面白さは、ライブ感のあるところだと思ってて。準備すればするほど思い通りにいかない。思ってもみないことがいっぱい起こるから、その場で起こったことを楽しむっていうスタンスが大事なんですよね。その繰り返しの中で、許せることが増えたり、変化や違いを認める楽しさを知ったりすることができている。障がいがある方と接する中で、僕自身がより生きやすくなったかもしれないですね」

森口さんや暮らしランプで働く人たちは、「障がいのある人のために」というような大きな気持ちではなく、ほんのすこしおせっかいをする気持ちで、障がいがある人と関わっているのかもしれないと感じました。

この仕事に必要なのは、自分にも弱さや足りない部分があるのだと気づき、みんなでよくなっていこうという気持ち。ぜひ、暮らしランプで、あなたの力を活かしてみませんか。

編集:北川 由依
執筆:ミカミ ユカリ
撮影:中田 絢子

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