募集終了2022.09.01

映画のまち・太秦を拠点に。「小道具」の世界で積み重ねたノウハウを次世代へ

日本映画の黄金期を牽引してきた「映画のまち」として知られる京都・太秦。太秦という地名を聞けば、東映太秦映画村にある時代劇のオープンセットをまず思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

今回ご紹介する株式会社高津商会(こうづしょうかい)は、太秦の地に本社を構え、撮影用の小道具を専門に扱う会社です。日本映画の発展と共に事業を拡大し、現在は映画やテレビ、イベントなどの仕事を幅広く手がけています。

高津商会では、日本映画の創成期から蓄積されてきた知識や技術を次世代へと引き継いでいくため、映像部門とイベント部門で新しい仲間を募っています。

日本映画の創成期を支えた「小道具」

高津商会の始まりは今から120年以上前、明治30年頃に初代・高津梅次郎(たかつ・うめじろう)さんが京都市上京区で開業した一軒の道具店。当初は映画との関わりはなく、一般の人向けに骨董品などを取り扱っていました。

その後、道具店のすぐそばに、日活関西撮影所の前身である法華堂撮影所が開設され、撮影所との付き合いが始まりました。本格的な小道具貸出が始まった1918(大正7)年を、高津商会の創業の年としています。

四代目社長を務める高津博行(たかつ・ひろゆき)さんは、日本映画と高津商会の関わりについてこう語ります。

「私どもの会社と深いご縁のあった牧野省三さん(「日本映画の父」と呼ばれる映画監督)は、ハリウッドに負けない日本映画を作ろうと、本物志向を目指しておられました。そこで、歌舞伎や商業演劇の舞台で使う作り物の道具ではなく、生活の中で実際に使われている道具を映画に取り入れようとしたんです。たまたま高津道具店が撮影所のすぐ近くにあったので、『高津さん、ちょっと貸してくれへんか』と声がかかって道具を貸し出したのがきっかけでした」

こうして始まった高津商会は、日本映画の発展と共に事業を拡大し、何度かの移転を経て、1980(昭和55)年には現在の太秦の地に本社を構えました。さらに、テレビ業界の隆盛に伴い、小道具の需要が在阪放送局に移ってきたのに合わせて、大阪営業所も開設。現在は、京都では太秦の各撮影所で製作される映画やドラマ、大阪では在阪放送局で制作されるドラマ・情報バラエティー・報道番組の小道具貸出やスタジオセットの装飾を請け負っています。

「ない」とは言えない。常に全力を尽くす

『水戸黄門』『必殺仕事人』といったおなじみの時代劇や、NHK朝の連続テレビ小説、現代劇『科捜研の女』など、幅広く手がけている高津商会。時代劇と現代劇、どちらが多いのか尋ねると、「今は現代物のほうが多いですね。ただ私たちの場合は、50年前、70年前、100年前の道具が蓄積されていますので、ある意味その時代の現代物です。当時からある道具が、100年経って時代物になっただけですから」と高津社長は笑います。

「例えば明治・大正時代の作品を作るなら、その時代の道具が必要です。でも、今では簡単には買えないので、残しておかないとダメなんです。だから、私たちは基本的に道具を捨てない。ずっと取っておくんです」

高津商会には、古代から現代まであらゆる時代の道具が揃っています。創業時から大切に保管されてきた膨大なストックは、100年以上つづく企業ならではの強みと言えるでしょう。これらの道具は、主に京都・宇治田原町の約3000坪の敷地に建てられた4階建て5棟の倉庫に保管されています。その数は10万点とも50万点とも言われ、正確な数は誰にもわからないそうです。

膨大な道具の一部は、京都本社や大阪営業所にも保管されています(写真は大阪営業所)

とてつもない量のストックは、管理やメンテナンスだけでも大変なはず。でも高津社長は、「私たちの仕事は、要望される小道具が『ない』とは言えない仕事ですから」ときっぱりと語ります。

「当然、予算やスケジュールの問題もありますが、依頼があれば何とか用意しなければいけない。そこに大義があるというか、私たちの責任だと思っています。どんな時も、『ない』『わからない』ではなく、とにかく調べて、探して、作品に対して全力を尽くすことが大事だと思っています」

さらに、「画面を構成するすべての道具には、必ず意味がある」と高津社長はつづけます。

「セットにあるものは、なぜそれがそこにあるのか、きちんと説明できないといけない。説明できなかったら、監督やカメラマンから『要らない』と言われてしまいます。台本を読んで、登場人物の性格や生活を想像して、『この人はこういう人で、こんな暮らしをしているから、この道具があるはずだ』と考えて用意する。だから、想像力が必要な仕事ですね」

想像力を養うためには、常にさまざまなことに対してアンテナを張り、自分の引き出しを増やす努力も必要です。高津社長は、こんな例を挙げて説明してくれました。

「例えば飲みに行くにしても、『同じお店にばっかり行くな』とよく言っています。近所に居酒屋が20軒あったら20軒行く。そうすれば、こんなパターンのお店もあるのかと、引き出しが20個増えるわけです。どんな作品が入ってくるかはわからないですから、いろんなことを広く浅く知っておくことが大切。作品が入ってきた時に、その分野を深く掘り下げればいいんです」

また、高津商会では、映画やテレビといった映像の仕事だけでなく、イベントの企画・運営も数多く手がけています。映画・テレビの時代劇に携わってきたノウハウを生かした時代行列の企画・演出・運営や、ホテルや商業施設の季節ごとの装飾や催事、博物館の装飾、自治体イベントの企画・運営など、多岐にわたるイベントに携わっています。

高津商会が小道具を提供している時代行列の様子
2018年、京都文化博物館にて開催した創業100周年記念展示。長寿番組「新婚さんいらっしゃい」や「鳥人間コンテスト」、映画「千年の恋」などのセット再現やロゴを紹介。事業部が中心となってイベント内容企画・会場レイアウトなどを手掛け、各部署のスタッフが装飾を行った。6日間で5,000人ほどの映像ファンらが集う人気イベントになった。

「昔は、企業の運動会や地域の盆踊りなどに道具を貸し出していました。それがイベント事業の始まりです。1970(昭和45)年に大阪で開催された日本万国博覧会で、お祭り広場のイベントを手がけたことをきっかけに、イベント事業がさらに広がっていきました」

映像であれイベントであれ、高津商会としてやってきたことの根っこの部分は同じで、あくまでも枝葉として広がってきたものだと高津社長は語ります。

「これまで積み重ねてきたことにしっかりと根を張りながら、新しい柱としてイベント事業も今後さらに充実させていきたいですね」

一般の方向けに、映画やテレビの時代劇の撮影で使われている鎧を着ることができる「武将体験」のサービスも提供しています

人材を育成し、映像産業を支えつづける

ここからは、常務取締役・営業担当の三木崇弘(みき・たかひろ)さんにもお話を伺います。三木さんは2013年に高津商会に入社し、大阪営業部でテレビ局の現場を経験。2019年からは現在の役職に就き、映像とイベントの両部門に関わりながら、新規クライアントの開拓などに取り組んでいます。三木さんは、映像部門の今後についてこう語ります。

「今はYouTubeをはじめ多くの動画配信サービスがあり、映画やテレビの業界は右肩下がりという印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。でも僕は、実はあまり悲観していないんです。テレビを観る機会は減ったとしても、スマートフォンやパソコンで映像を見る習慣自体は、非常に根付いていると思うんですね。どれだけハコが変わろうと、面白いものを作れば観てくれるはずなので、映像産業にはまだまだ先があると考えています」

三木さんの言葉を聞いて、高津社長も「本質的には全く何も変わっていないし、むしろ観る人の数は増えているかもしれませんね」と大きく頷きます。

そして、映像産業に対するニーズにこれからも応えていくためにも、知識や技術、ノウハウを次の世代につないでいけるような人材を育てていきたいと、高津社長と三木さんは口を揃えます。

「今後の映像産業において、きちんと満足していただける小道具・装飾を供給しつづけられるように、10年、20年というスパンで人材を育成していくことが大事だと考えています。ですから、『自分が受け継いで次につないでいくんだ』という気概を持った方にぜひ来ていただきたいですね」(高津社長)

「ありがたいことに、関西圏の映像産業の小道具・装飾においては、当社が大きなウェイトを占めていますので、これからも役割を果たしていくためにも、しっかりと人材を育てていきたいです」(三木さん)

さらに、イベント部門の今後について、三木さんはこう言葉を継ぎます。

「イベントなどを手がける事業部という部署は、従来の形に縛られず、何でもやろうという部門です。今までにやったことがない分野でも、ある意味何でもできる部門なので、どんどん新しいことにチャレンジしていきたいですね」

企業から一般まで、あらゆるニーズに対応

つづいて、イベントや祭事を担う事業部で係長を務める長瀬さんにお話を伺います。高津商会に入社して25年近くになるという長瀬さんは、入社当初はイベント事業の手伝いをしながら、劇団への小道具貸出を主に担当。その後、舞台の仕事に10数年携わり、さらに映画・ドラマ・バラエティー番組など、高津商会の仕事をひと通り経験してきました。

そして、2年前に事業部に配属になり、現在は企業から一般の方まで、規模も内容も多岐にわたる依頼に対応しています。

「ショッピングモールの展示を企画・運営することもあれば、椅子を一脚貸してほしいという一般の方に対応することもあります。結婚式場で鎧を着て写真を撮りたいという新郎新婦さまがいたら、貸出や着付けをさせていただいたり、会場の装飾としてワイン樽がほしいという希望があれば貸出したり、本当にさまざまですね」

映画、テレビ、イベントなどの現場を経験してきた長瀬さんですが、仕事のやりがいや楽しさは、それぞれの現場によって違うものなのでしょうか。

「違いは感じないですね。仕事としての楽しさは、あまり変わらないと思う。用意するものの量や内容は違っても、やっていることは一緒だし、お客さまに納得していただく、喜んでいただくことがやりがいなので。そのために毎回全力を尽くしています」

ただ、「昔の自分の仕事を振り返ると、実力のなさや至らなさを恥ずかしく思うこともあります」と笑う長瀬さん。それでも、相手に喜んでもらうために全力を尽くす、その積み重ねが次の仕事につながってきたはずだと真摯に語ります。

多種多様な現場を経験してきた長瀬さんは、どんな人が高津商会の仕事に向いていると感じているのでしょうか。

「どんな現場でも、結局は人と人との付き合いなので、コミュニケーションがすべて。ですから、コミュニケーション力が高い人が向いていると思います。あとは、どんな仕事にも自分で楽しさを見いだせる人。私自身も、入社当時に希望していた仕事だけをずっとしてきたわけではないですし、高津商会の仕事は本当に多岐にわたるので、どんな現場も楽しもうという姿勢を持った方に来ていただけるといいですね」

好奇心と瞬発力で、現場に飛び込んでいく

最後に、テレビ局の仕事を担当する和田さんにお話を伺います。和田さんは大学卒業後に新卒で入社し、今年7年目を迎えます。

「私は生まれも育ちも太秦なので、高津商会の存在は以前から知っていましたし、もともと舞台を観に行くのが好きだったので、小道具の世界に興味を持って応募しました。非日常的な仕事で面白そうだなと、好奇心で飛び込んだ感じですね」

入社後は、倉庫で道具や鎧を扱ったり、祭事の手伝いをしたりという研修期間を経て、毎日放送に配属。現在は、お昼の時間帯に生放送する情報バラエティー番組を担当しています。バラエティーの小道具とは、どんなものを用意するのでしょうか。

「セットとして建っているものは大道具の範囲になるので、それ以外のセットに置かれているものすべてですね。イスなどの家具も、華やかに見せるための装飾も、番組の中で紹介する商品のディスプレイも、すべて小道具です。商品の現物が手元に届くのは、当日の朝だったり、オンエアの2時間前だったりするので、時間がない中でどう仕上げるか、何ができるか考えながらやっています。わりと瞬発力が求められる仕事ですね」

特番の時には、セットを一から作り上げるため、特にやりがいがあると和田さんは語ります。

「デザイナーさんと話をしながら、『こんなのはどうですか』と提案して、イメージを具現化していきます。相手の意図をどう読み解いて、どうやって形にするか、そこが難しさでもありやりがいでもありますね。できあがった時に喜んでもらえると、めちゃくちゃうれしいです」

約3ヶ月間、NHKのドラマの現場も経験したという和田さん。「バラエティーとドラマでは、仕事のやり方が全く違う。ドラマは台本を読んで、登場人物に肉付けしていくような空間を作らないといけないので、また違った難しさがありました」と振り返ります。

「でも、ドラマとバラエティーで全く違うことをしていても、その経験が全部つながっていくと思います。ドラマの経験も倉庫にいた時の経験も、今のバラエティーの仕事に生かせる部分が絶対にあるので。この仕事は、いろんな経験を積めば積むほどクオリティも提案力も上がっていくし、仕事の面白さも増えていく。そのプロセスが楽しいですね」

ちなみに和田さんは、芸術系の学部ではなく、経済学部の出身。必要なことはすべて現場で覚えたと笑って話します。

「何も知らない状態で、ただただ興味本位でこの世界に入ったんですけど、なんだかんだで楽しんでやれているから自分には合っていたのかな(笑)。社内の先輩たちも、大道具や衣装などの他社のスタッフさんも、みなさんが優しく教えてくれて、たくさん助けてもらいました。入社時の私のように専門知識がない人でも、『面白そう』という感覚や好奇心を持っていれば、仕事として楽しくつづけていけるんじゃないかなって思います」

高津商会のみなさんから共通して感じたのは、興味や好奇心を持って新しいことにも飛び込んでいく姿勢や、自ら仕事を楽しもうというスタンス。そんな姿に共感した方なら、きっと一緒に楽しんで働けるのではないでしょうか。

長年にわたって積み重ねられてきた知識や技術を、次の世代へと引き継ぎ、彼らと共に楽しみながらチャレンジしていきたい。そう感じた方は、ぜひ仲間に加わってみませんか。

編集:北川由依
執筆:藤原朋
撮影:清水泰人

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