募集終了2019.03.11

まちを楽しみ、街並みを残す。舞鶴で紡ぐ人とまち

京都市内から電車に揺られること約1時間半。西舞鶴駅に降り立ち、そこから15分ほど歩くいたところに、今回の舞台となる平野屋商店街はあります。

舞鶴市は、人口約8万人。明治時代に旧海軍舞鶴鎮守府が開かれていたこともあり、市内には海軍が残した多くのれんが建物が残っています。

ほんの数十年前までは、街中を多くのロシア人が行き来していたのだとか。平野屋商店街にもロシア文化の影響を受けたゲートが並び、当時の雰囲気を楽しむことができます。

また日本海に面する舞鶴港は、京都府下で松葉ガニの漁獲高1位を誇るなど水産資源が豊富。ロシア、韓国、中国へ船が出ており、外交の拠点としての役割も担っています。

海に面し、国際色豊かなまち、舞鶴。そこで「まちを楽しむ」をテーマに活動しているのが、KOKINのみなさんです。

まずは代表の大滝雄介さんに、平野屋商店街をご案内していただきながら、KOKINの成り立ちや活動についてお伺いしました。

大嫌いだった地元で、2度目の人生を生きる

舞鶴市生まれ、舞鶴市育ち。人との距離感が近く、まちを歩けば知り合いに出会う。そんなコンパクトで、温かみがある地方都市らしい関係性が嫌いで、大学進学を機に地元を出たと話す大滝さんは、現在KOKINの代表であると共に、創業60年を超える大滝工務店の代表でもあります。

大滝さんがKOKINを立ち上げたのは、2011年。以前は、東京の大手IT企業で働いていました。かねてから希望していた会社で、充実した日々を送っていましたが、入社2年目、23歳の時に転機が訪れます。

「親父が病気になり、舞鶴に帰ってきてほしいと懇願されました。大嫌いで一度は飛び出したまち。しかし大滝工務店のこともあったので、自分の人生を考え直したんですね」

半年ほど悩んだ末、大滝さんが出した答えは、地元に帰ること。決め手となったのは、チャレンジする人生を送りたいという思いでした。

「何となく将来の自分の姿が想像できてしまって。そこそこ満足な人生が送れることはわかったけれど、人生1回きりなのでチャレンジしたいなという気持ちが芽生えたんです。

大滝工務店の後を継ぐことは、僕にしかできない役割。戻れる環境があるのであれば、自分の力を試したいと思いました」

2007年、大滝さんは東京で培ってきた仕事も友人関係も全て断ち切って、舞鶴にUターンしました。「人生を一回リセットした気分だった」と当時を振り返ります。

「僕に何が残せるだろうと勝手な使命感を抱いていましたし、なんとなしの後継ぎとは思われたくないという反骨心もありました。でも当時、大滝工務店は大きな借金を抱えていて、Uターン後しばらくは、自暴自棄になりそうなほどハードな日々が続きました」

その一方で、大滝さんは二度と戻らないとすら思っていた舞鶴のまちに、愛着が湧くようになっていきます。

「建築の仕事をしているので、自然と建物に目がいって。子どもの頃には気づかなかった、舞鶴の街並みのレトロ感におもしろさを感じるようになりました。そのうち、この街並みを守らなくちゃと使命感が湧くようになって。エネルギーを持て余していたこともあり、街並みを守る会を立ち上げたいなと思ったんです」

ちょうどその頃、出会ったのがのちにKOKIN立ち上げメンバーとなる大工の徳永啓二さんと、矢野麻衣子さんでした。メンバーとの出会いから、舞鶴のまちで遊ぶ楽しさに、次第に気づいてきます。

そして2011年、レンタルスペース「宰嘉庵(さいかあん)」の運営をオーナーから依頼されたことを機に、KOKINを結成。もともとタバコ屋だった町家を、まちの人を巻き込んでリノベーションしていきました。

現在の「宰嘉庵」

「講師を呼んでネーミングのワークショップを開催したり、コミュニティデザインについて学んだりしながら改修を進めていきました。2012年12月にオープンしたあとは、毎月音楽イベントや展示会、寄席などを開催して。メンバーみんなそれぞれ本業があるので大変でしたが、舞鶴でたくさんのつながりができました」

2013年には、写真集「ぼくらのまち」を制作。舞鶴の暮らしを切り取り、舞鶴の魅力発信にも取り組んでいます。

たまたま訪れた商店街のかしわ店で「ぼくらのまち」を発見。ページをめくりながら、まちの人を紹介してくれました。

2015年には、商店街にあった元薬局店を改装し、チャレンジカフェ&バー「FLAT+」をオープン。「いつかお店を持ちたいけれど、金銭的にまだ準備ができていない」、「新しいチャレンジをして、自分の幅を広げたい」という方が、日替わりでお店を出しています。

みんなで場をつくることを大切に、ワークショップ方式でまちのみなさんを巻き込みながら改装。2016年5月にオープンしました。
KOKINメンバーの矢野さんも、週1回お店に立っています。

2017年には、レンタルスペースとして運営していた「宰嘉庵」を、ゲストハウスに業態変更。今では月60名以上もの方が利用していて、海外からのお客さんが6割を超えているそうです。

2018年には「FLAT+」からすぐのところにある、創業100年を超える銭湯「若の湯」が登録有形文化財に指定されました。「この頃から点だったものが目にも見える形でつながりはじめ、KOKINの活動は軌道に乗り始めた」と大滝さんは話します。

「若の湯」のプロデュースをKOKINが担当。ロゴデザインやWEBサイト作成に加え、登録文化財の申請もお手伝いしたそうです。

「宰嘉庵とFLAT+、若の湯はそれぞれ徒歩数分のところにあります。宰嘉庵に宿泊される方が、FLAT+で一杯飲んだあと若の湯で汗を流したり。FLAT+でランチを食べた後、宰嘉庵へチェックインに来てくれたり。そうした人の動きをつくれたら、平野屋商店街にも賑わいが戻ってくるんじゃないかなと期待しています」

まちを楽しむことが、街並みを守ることにつながる

舞鶴の街並みを残したい。その思いからはじまったKOKINは、今ではゲストハウスやカフェを運営するチームに育ちました。立ち上げから8年を振り返って、大滝さんは何を思っているのでしょうか。

「KOKINを立ち上げたきっかけは、舞鶴の街並みをつくる会をつくりたかったからです。今、KOKINでは街並みを守ることに直結する活動はしていませんが、それでいいと思っています。僕は、街並みを守ること=まちを楽しむだと考えていて。みんなが楽しく舞鶴のまちで遊ぶ先に、街並みが守られていくことが僕の目標です」

2011年に任意団体として動き出したKOKINは、2019年法人化を予定。新たなスタートを切ろうとしています。

「やりたいことは3つあります。1つは、2軒目のゲストハウスをつくること。宰嘉庵で予約を受けきれない日も多くあり、宿泊業に可能性を感じています。2つ目は、舞鶴の魅力をご案内するツアーを企画すること。最後に、舞鶴で暮らしたい方のための移住相談です」

やりたいことを実現するため、KOKINではゲストハウスの運営をお任せできる新メンバーを募集中です。
具体的にどんな仕事をお願いすることになるのか、「宰嘉庵」の店主を務める長尾優さんにお話を聞きました。

舞鶴の楽しさを伝えるあたたかな空間

長尾さんは、大阪出身。結婚を機に、2016年舞鶴へ移住しました。第1子を産んで、仕事がしたいなと思っていたとき、たまたま出会ったのがKOKIN。かつて民泊のホストをしていたこともあることから、「宰嘉庵」の店主として運営を担うようになったそうです。

「宰嘉庵の事業は主に4つ。宿泊、レンタルスペース、レンタル着物、そしてツアーです。今は宿泊が9割、レンタルスペースとしての稼働が1割ほどです。ほかにもKOKINに相談がくるまちづくり案件のお手伝いもしているので、仕事の幅は広いですね」

1日のスケジュールはどんな感じなのでしょうか。

「朝はチェックアウトのお客さまのお見送りからはじまります。10時から1〜2時間は清掃。その後、ランチをFLAT+で食べたり一度自宅に戻ったりします。午後はフリータイムで、まちづくり関係の仕事があればやりますし、なければ自由に過ごしています。チェックインは16~20時なので、また宰嘉庵に来て、お客さまの対応をしています」

長尾さんには小さなお子さんがいます。取材をさせていただいた日も「宰嘉庵」に宿泊する私たちの対応を、保育園帰りの娘さんと一緒に対応してくれました。

「子どもがいても、働きやすいですよ。拘束時間は短いですし、自宅とも近いので柔軟に働けています。私にとって家族が一番大切なので、家族と過ごしたいゴールデンウィークや年末年始はご予約を受け付けていません。自分のスケジュールの範囲内で、お客さまとご相談して宿泊してもらうスタイルです。それに、お客さまは6割以上が海外の方なので、繁忙期に無理して開けなくても大丈夫なんです」

暮らしを犠牲にしてまで売上を上げることを選ばず、理想の暮らしの範囲内で働く。そのスタイルを貫けているのは、KOKINがまちを楽しむことテーマに活動しているからなのかもしれません。

ゲストハウスの運営は、どんな人が向いていますか?と尋ねると、長尾さんはこう答えてくれました。

「人と楽しく話せる人、キレイ好きの人が向いていると思います。それから、海外のお客さまが多いので、挨拶や簡単な文章が話せる程度の英語が必要ですね」

「宰嘉庵」の稼働は順調。2軒目のゲストハウスオープンを目指すKOKINで、今後やりたいことはなんでしょうか。

「ホテルにはない、あたたかい空気を楽しんでもらえる空間をつくりたいです。また舞鶴にディープな場所をご紹介するツアーも企画したいですね。フォトジェニックスポットを巡ったり、商店街の鰹節屋さんで鰹節を削る体験ができたり、着物を着てまちを歩いたり。観光本に載っていない、舞鶴の楽しみ方があるよって提案したいです」

KOKINメンバーが語るこれからの舞鶴

最後に大滝さん、長尾さんに、KOKIN立ち上げメンバーの矢野麻衣子さん、徳永啓二さんも加わり、これからのKOKINと舞鶴についてお話ししてもらいました。

右奥:徳さん、右前:矢野さん

:2017年に立ち上げたKOKIN銭湯部の活動を、これからも頑張っていきたい。舞鶴には「若の湯」と「日の出湯」があって福知山には「桜湯」がある。応援するには行くのが一番だから、僕はローテーションで毎日どこかの銭湯に入りに行っている。だから銭湯を絡めたツアーがやりたいな。銭湯巡りツアーとか、クルーズ船が来たときにまち巡りツアーとかをして。

大滝:いいですね、やりましょう。

「若の湯」にて。

矢野:私は毎週火曜日に「FLAT+」でお店をやっているんだけど、「FLAT+」がもっと訪れやすい場所になったらいいなと思う。会社と家の往復になっている人って多いから、「FLAT+」がサードプレイスになって、自分の居場所だと感じてもらえるようにしたい。

大滝:「FLAT+」で刺激を受けたり、人のつながりができたりして、自分なりに何かやってみようと思える場所になるといいよね。

矢野:めちゃくちゃ盛り上がるうよりも、地味にみんな楽しんでいる感じがいいんじゃないかと思っていて。KOKINもやらないといけないことよりも、「楽しい」、「嬉しい」と思えることをこれからもみんなでやっていきたいね。

長尾:私は自分が楽しめることが、仕事になったらいいなと思う。みなさんと違って別に本業があるわけじゃないから、KOKINの中でずっと仕事を続けていけたらなって。色々な仕事をしてきたけれど、KOKINの仕事は自分で工夫したり創造したりできてすごくおもしろい。自分が楽しめる場所が、一つ、二つと増えていって、宿泊してくれた人に舞鶴のおもしろいところを紹介していきたい。

大滝:いいね。ゲストハウス、増やしていこう。

長尾:色々なバリエーションのゲストハウスを作れるといいよね。銭湯とコラボしたゲストハウスもおもしろそう。舞鶴は小さいまちだからこそ、動く人を埋もれたままにせず見つけてくれる人がいる。それが私のやりがいになっているなと思う。

矢野:3人からはじめたKOKINも今では9人になったよね。一方で、閉店する商店街のお店もあって、街並みもこの数年で変わってきている。そういうのを見ると、舞鶴の将来が心配になるわけだけど……メンバーが増えて、色々な人とのつながりも生まれているから、そこからまた新しいものを生み出して、楽しいまちにしていきたいね。

大滝:舞鶴には知られていないだけで、おもしろい人がたくさんいる。KOKINは、舞鶴では名の知られたチームになってきたし、色々な人とつながっているから、これから舞鶴に移住を考えている人が、まちに馴染むお手伝いはできる。今回募集する新メンバーにも、安心して来てほしいね。

舞鶴のまちをもっと知ってほしい、舞鶴のおもしろさを伝えたい。そんな思いが伝わるおもてなしは、仕事だからといってできるものではありません。今回KOKINメンバーのみなさんに舞鶴の街をご案内いただき、「宰嘉庵」に宿泊して、彼らが心の底からまちを楽しんでいることを実感しました。

「宰嘉庵」の宿泊者には、「若の湯」や「日の出湯」で使える無料券と共に銭湯バックが用意されていたり。オススメのお店がびっしり書かれた案内マップがあったり。「FLAT+」に行けば、気軽に話しかけてくれ、おもしろい人とつないでくれたり。至るところで、舞鶴への愛を感じたのです。

もし何か感じるものがあったなら、ぜひ気軽に連絡してください。一人ひとりがまちを楽しむことが、舞鶴のまちを楽しくすることにつながっていくはずです。

執筆:北川 由依
撮影:吉岡 大

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