募集終了2022.07.01

願いや悩みに寄り添う「不動産プロデュース」。建物から関係性を育み、暮らしを豊かにする

「良い物件を紹介してくれたことで、思い描いていた夢が叶ったんです」「岸本さんに実家のリノベーションをお任せして本当によかった」。岸本さんに依頼をした方々はみんな笑顔で、想いのこもった感謝の言葉を口にします。

「建物と街のプロデュース」をコンセプトに掲げ、企画・設計・入居者の募集・運営まで、建物の活用を一貫して担う「株式会社アッドスパイス」。代表の岸本千佳さんは、時代を捉えた独自の企画力とリーシング知識をもって建物のプロデュースを行い、依頼主の希望を叶えるお手伝いをしています。

今回募集するのは、「建築設計」「不動産仲介」の2つの職種。どちらも建物や人への情熱をもって仕事に取り組めるかが重要になります。今回はこれまでアッドスパイスへ仕事を依頼した方々にも取材させていただき、岸本さんがどれだけ街や建物へ想いをもって仕事に挑んでいるのかをお聞きしました。その言葉の中から、アッドスパイスの在り方や、ここで働くことでしか味わえない面白さを感じ取っていただければと思います。

不動産プランナーという仕事

岸本さんの名刺に書かれている、「不動産プランナー」という言葉。これは、岸本さん自身が自分の仕事を表すために名乗っている肩書きです。建物の活用方法を依頼主と一緒に模索し、土地柄や建物の形状などを加味してどのように活用するか企画、提案をする。工事業者の選定から手配を行い、着工します。完成後は建物の用途に応じて、入居者の募集から人選までも行います。

多く扱うのは、リノベーションが必要な古い建物。依頼の多くは、親などから受け継いだ古い建物を「どう活用すれば良いのだろうか」という相談から始まることが多いそうです。

「ハウスメーカーや建築事務所に何件も相談したけど期待した結果が得られず、ようやくアッドスパイスにたどり着いたという方もいらっしゃいます。正直なところ、古い建物を潰して新築で建てた方が安いし、てっとり早い。皆さんそれを理解した上で、今ある建物を活かしたいという想いをもって相談に来てくれています。だからこそ、借り手だけを意識したリノベーションではなく、貸し手であるオーナーの個性が活きる提案しています」

そのため、依頼主と初めて会う時は十分に時間をとって、想いをしっかりと汲み取ります。

「不動産業というと、いわゆる営業トークがいかに上手いかが求められると思いますが、アッドスパイスでは建物に対する思い出や、依頼をしようと考えた経緯などをしっかりとお聞きし、リノベーションすることでオーナーがどんな未来を描きたいのか、何を解決したいかを一緒に導き出せる時間になるように心掛けています」

オーナーへの聞き取りのあとは、建物やまちの周辺を歩き、入念に情報収集します。

「まちを歩きながら、停まっている車の車種やゴミの出し方など周辺の様子を観察します。定量的なデータも確認しますが、それだけでは見えてこないまちの雰囲気や人の暮らしを観察することはとても重要だと思っていて。このまちにはどんな建物が馴染むだろうか、どんな商いができたら面白くなるだろうか。そんな視点からオーナーに提案するプランニングのヒントを得ることができるんです」

こういった対応力、観察力も「岸本さんに依頼してよかった」と思う理由の一つなのでしょう。

オーナーのパーソナリティを活かしたシェアハウス&喫茶店

こうした岸本さんの仕事ぶりに惹かれ、リノベーションを依頼したのが富依俊哉(とみよりとしや)さん・具子(ともこ)さん。京都市 西陣エリアにある俊哉さんの実家であり、紡績工場と米穀店として使われていた場所をリノベーションしたいと考えたところから、アッドスパイスへ依頼をすることにしたそうです。

喫茶ヒトクチヤ」の屋号は、ここが米穀店「二口屋」だったことに由来している。

「外国暮らしと首都圏でのフリーランス活動を経て30数年ぶりに京都に帰ってきました。生まれ育った実家は老朽化が進み、かつてはいろんな人が集っていた建物が使われないまま傷んでいる。そこをシェアハウスとして有効活用できないかと考えました」(俊哉さん)

ちょうどその頃、学生時代の友人だった具子さんと再会します。具子さんは「喫茶店を開きたい」と物件を探している最中でした。敷地内には喫茶店として使えそうなスペースがあったため、場所の提供を提案します。なんとこの再会を機に、お二人は結婚。そこからシェアハウスと喫茶店としてリノベーションをできないかと、考え始めます。自分たちの構想を一緒に叶えてくれる会社を探し始めた時に出会ったのが岸本さんでした。

左が具子さん、右が俊哉さん

「ドラマのようなお二人の出会いや、紡績工場のあとは学生寮として使われていたなど、建物が持つストーリーをじっくりとお聞きしました。大切にしたのは、『いわゆる京都らしさは不要です』という俊哉さんの言葉。過大評価された京都らしさではなく、京都で生まれ育ったお二人が求める『京都らしさ』は何だろうと考えて建物のプランニングをしました」(岸本さん)

「西陣の中でも奥まった場所にあるので、知り合いの中には『こんな所でお店をやるなんて大丈夫?』という声もありました。でも岸本さんはシェアハウスと喫茶店が同じ敷地にあることで、きっと面白い空間になると肯定してくれたんですね。シェアハウスは新しい人達が行き交う所で、喫茶店はいつも変わらない安心できる場所。新しいもの好きながらも歴史を重んじる土地柄や、つかず離れずの京都ならではの人間関係とか、そういう所を岸本さんは汲み取ってくれたんだなと感じました」(具子さん)

「喫茶ヒトクチヤ」店内の様子。
元は防空壕だった場所をギャラリーとして利用している。

シェアハウス「PATHTO」は、俊哉さんはライター、具子さんもアクセサリー作家であることから、クリエイティブなことに興味関心を持つ人を入居者に迎えようと、コンセプトやデザインを決めていったのだそう。

「共有部は性別や国籍にもとらわれないデザインにしています。これは俊哉さんが海外に住んでいた経験もあり、留学生も受け入れたいという考えから。富依さんご夫婦がとても魅力的なので、お二人の持つパーソナリティを存分に活かすことが、建物の魅力づけにつながるのではと考えました」(岸本さん)

共有部は大きな窓から日が差し込み、明るい空間です(撮影:表恒匡)
HPに掲載するテキスト制作などの一部は、ライターである俊哉さんが担当。

備品や家賃の管理、入居者の面接から退去などのシェアハウスの基本的な運営業務はアッドスパイスが担当していますが、面接には富依さん夫妻も同席します。他にも自由参加のバーベキューを開催するなど、オーナー自身も入居者と関係性を持つことで、シェアハウスの環境を良好に保つことができているのだそう。

「喫茶店でコーヒーを飲みながらちょっとした相談をしてくれる方もいたり、べったりじゃないけどちょうどいい距離感なんじゃないかな。退去した後も、喫茶店に顔を出してくれる方もいるんですよ」(具子さん)

「喫茶店にはシェアハウスの入居者や、私の父の友人、近所の方も訪れるため、さまざまな世代が行き交う場になっています。これも建物にある背景や、私たちの想いを理解してこの場所をつくってくれた岸本さんの存在があったからこそ。他の場の活用を考える時がきたら、その時も岸本さんに相談しようと思っています」(俊哉さん)

店内には、建物の歴史を知ることのできる写真が飾られている

役割を失いかけた建物がオーナーの思いを実現する場として活用され、新たな交流が生まれる場所へ生まれ変わる。単に「建物のリノベーションに携わる」のではなく、依頼主の想いの実現を手助けし、新たな道へ進む後押しをすることが、アッドスパイスの大切な役割なのです。

入居者同士が高め合える「アッドスパイスビル」

つづいてお話を伺った建物は、こちらも西陣の白峯神宮の東側にある「アッドスパイスビル」。10年以上不動産のプロデュースを手掛けてきた岸本さんが、自らビルを購入してオーナーとなり、運営しています。

岸本さんがリノベーションを手掛け、2021年の5月に「アッドスパイスビル」として新たなスタートを切りました

「独立後拠点としてきた西陣の街で、不動産を購入して自ら場の運営を実践することで、新たな発見があるのではないかと思い、自社ビルを購入することにしました。向かいの白峯神宮の緑の借景があること。周辺の環境からも、将来的にどのような用途でも可能性があることも購入の決め手でした」(岸本さん)

ビルの向いには白峯神宮があり、屋上からも美しい緑を眺めながら一息つくことができます。(撮影:平野愛)

現在1階に入居しているのが、「OPERA MUFFINS Kyoto」。百貨店の催事でしか買えない人気のパン屋「Boulangerie OPERA Kyoto」の姉妹店として、マフィンを販売しています。代表の小西友子(こにしゆうこ)さんに「なぜこの場所にお店を構えようと思ったのですか?」と尋ねると、「岸本さんの存在があったからなんですよ」と満面の笑みで答えてくれました。

もともと、Boulangerie OPERA の創業10年を機に、何か新しいことにチャレンジしたいと考えていた小西さん。しかしコロナ禍となり、催事での販売は一時的にストップ。通販でパンの詰め合わせ「オペラボックス」の販売を行っていたそう。そんな折、岸本さんからパンの注文が入ります。

「以前から知り合いを通じて岸本さんの仕事ぶりを知っていたので、新しいお店について相談したいなと思っていたところだったんです。そしたら、ビルのテナントを探していると聞いて、一度ビルを見学させていただきました。一目見た時に『ここやな』ってピンときて、迷いはなかったですね」(小西さん)

京都は人との繋がりを重んじる土地。小西さんもこれまで、何よりも縁を大切にしてきました。ロケーションも決め手の一つでしたが、小西さんにとって、岸本さんと同じ場で仕事ができることに大きな価値を感じていたと言います。

お店の世界観があふれている店内。

「一人で会社も立ち上げて、コロナ禍にこのビルを購入するという大きなチャレンジをしている岸本さんにめちゃくちゃ刺激をいただいたんです。これまでは、個人事業主としてやってきたBoulangerie OPERA を2022年の2月に法人化し、代表に就きました」(小西さん)

小西さんのこだわりが詰まった「OPERA MUFFINS Kyoto」の店内には、甘い香りのマフィンが並んでいます。同じビルの入居者はもちろんのこと、白峯神社の関係者の方も気に入って定期的に買いにきてくれているのだそう。

ビルの入居者の皆さんも、OPERAのマフィンの大ファン。

「お店独自の世界観、味も見た目も品質の高いマフィンは、質の高いお店も多く、高感度な人が多いこのあたりでも違和感なく受け入れられると思いました。特に一階はビルの顔になる場所なので、長く続けてもらえるかどうかも大切です。他にも申し込みたいという声はいただいたんですが、OPERAのお店としての魅力だけでなく、小西さんの人柄にも惹かれて、入って欲しいとアプローチしました」(岸本さん)

アッドスパイスビルには他にも「春ひなたひかり整体施療院 」と雑貨を扱う「小モノカワシマ」が入居していますが、ビルの入居者同士が同じように商いを頑張る仲間であり、ファミリーのような存在なのだそう。

2階の「小モノカワシマ」のオーナー(左)と談笑する岸本さん。

「私を含め、岸本さんのセンスや仕事ぶりに惹かれて入居しているんだと思いますよ。同じようなモチベーションを持っていらっしゃる方達と同じ場で仕事ができる。こうした想いがあるからこそ、場の活気を生み出しているのかもしれないですね」(小西さん)

仕事を通じて、まちや人とのつながりが広がっていく

2014年にアッドスパイスを設立し、これまでは企画から建物の運用まで一気通貫して、岸本さんが一人で担ってきました。そのおかげで、依頼主と密接に関わり、関係性を築きながら、建物の行く末まで見守ることができており、物件のオーナーや物件の入居者、そして岸本さんにとっても満足度が高い状況が生まれています。

しかし、個人で担える仕事の量が、一人で抱えられる最大値に達したと感じるようになったそう。また出産など自身のライフスタイルの変化を経て、アッドスパイスをもっと社会的にインパクトを与えられる存在へ成長させていきたいと考えるようになり、新たな仲間となる人を募集することになりました。

アッドスパイスビルの3階が事務所。

「人が増えることで、これまで自分だけだと受けることが難しかったもっと規模の大きな案件やエリアプロデュースのような仕事にもより多くチャレンジしていきたいと考えています」

今回募集する1つ目の仕事は、「不動産仲介」の仕事。アッドスパイスで企画した物件に適した入居者を見つけるために、建物の魅力が伝わる募集記事を作成し、応募者の案内・面談対応などを行います。

「一般的な不動産仲介だと、数字だけのために自分があまりお勧めできない物件も仲介しなければならないこともあります。けれど私たちが扱う物件は、オーナーの思いを聞き、自分たちで企画したものばかり。建物のいいところもくせもきちんと理解できるから、自分の言葉で建物の魅力を伝えられます」(岸本さん)

アッドスパイスで仲介する物件の開拓も任せていきたいそう。京都は一般的に流通してない物件も多く、使われないまま放置されている建物も多数あるため、社会的な意義もあると考えています。また、京都移住計画のサイトの「住む」に掲載する物件もアッドスパイスが担当しており、今回募集する方に掲載もお任せしたいと期待しています。

「アッドスパイスの仕事に必要なのは、建物やまちに対する愛着や、想像力。この建物の特徴を活かし、どんな風に活用され、どんな人たちが集う場所になるといいだろうと、想像を膨らませてほしいんです。仲介って、企画や設計に比べて地味な仕事に見えるかもしれないんですが、建物を通じて様々な人の人生に触れることのできるとても面白い仕事だと思いますよ」

2つ目の仕事は、「建築設計」の仕事です。現在は外部の建築士へ依頼していますが、将来的には社内ですべてをまかないたいと考え、募集することになりました。単に設計だけを請け負うのではなく、依頼のきた案件の用途やコンセプトを岸本さんと一緒に考えて、企画書作成の補助を行います。また、オーナーの希望している用途が成立するか建築面での調査を行い、図面を起こし、基本設計、インテリアの提案なども担ってもらう予定です。

「慣れるまでは私の仕事の一部を担いつつ、設計業務とアッドスパイスの手掛けたシェアハウスや複合施設などの管理を担って欲しいと考えています。普通は建物が完成すれば、そこで仕事が終わるんですが、管理を担うことで設計後の状態を知ることができるんです。『使われるなかで、こういう風に変化するのか』『もっとこう設計したら、愛される場所になるかもしれない』と自分の中にたくさんの学びを増やすことができる貴重な仕事です」(岸本さん)

「手前みそですけど、本当にいい仕事なんですよね」と笑顔で話す岸本さん。自分の企画した建物にふさわしい入居者が入って、街にも魅力が増す。そこで暮らす人同士のつながりがどんどん広がっていき、自分の人生や暮らしも豊かになっていく。それを身をもって体感している岸本さんだからこそ、嘘偽りのない「いい仕事」という言葉がこぼれるのでしょう。

富依さん夫妻と岸本さん。出産祝いをプレゼントされるほど親しい間柄。

設立から8年が経過し、新たなフェーズに入るアッドスパイス。停滞した世の中や建物にスパイスを加え、少しでも面白い未来に進みたいというコンセプトのもと、岸本さんが名付けた名前です。決して「岸本さんと同じことをやる」ということではなく、自分の持つ発想力、観察力を活かして、自分味のスパイスを加えていく。そんなイメージを持って、アッドスパイスに飛び込んでみてください。従来の不動産や建築とはひと味もふた味も違った仕事に出会えると思います。

編集:北川 由依
執筆:ミカミ ユカリ
撮影:岡安いつ美

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