2022.05.23

みんなの交流が生まれるあたたかい場所障がいのある人の働く場としての常設子ども食堂「Niji cafe」

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

梅小路公園のそばにある小さな喫茶店。どこにでもありそうな佇まいのお店は、昼間はランチが食べられ、木曜日の夜には子ども食堂になり、金曜日の夜はバーにもなる飲食店「Niji cafe(ニジカフェ)」です。実は、ここは障がいのある人の働く場としてつくられた場所。今回はそんな「Niji cafe」を訪ね、店長の渡辺智陵(わたなべとしたか)さんと担当の藤井梨恵(ふじいりえ)さんにお話を伺いました。

障がいのある人の働く場所をつくりたかった

「Niji cafe」は2021年12月13日に営業を開始した、常設の子ども食堂。2022年の1月から3月までは試験運用として毎週木曜日に子ども食堂をオープンし、限定20食を無料で提供しました。その間、たくさんの方が訪れ、2022年4月から正式にオープンの運びとなりました。

栄養バランスの良さそうなある日の日替わりランチ

また、平日は11:30から14:00まで日替わりランチを提供するランチ営業も行なっています。さらには、4月からは週に1回の夜営業もはじまっているとか。

そんな「Niji cafe」の母体は「NPO法人クリエイター育成協会」。2008年からプログラミングやWebデザインを勉強して就職したい人を支援してきました。7年前からは少し枠を広げて、ITに特化した障害者就労移行支援事業所の運営も開始し、誰もがスキルを生かして仕事を得られるよう支援しています。

「私たちの事業所を利用している方々は、発達障害や知的障害、うつ病などの精神障がいをお持ちの方が多い傾向にあります。一般企業の多くは平日9時から17時が就業時間ですが、その時間みっちり働くというのは、なかなかハードルが高くて……。就職できても続かないこともありました」と藤井さんは話します。

それなら、障がいのある人も働きやすい場を自分たちでつくろうと考え、生まれたのが「Niji cafe」なのです。

いろんな人からの応援を受けつつ社会の課題を解決する

なぜ子ども食堂なのか?それは、子どもの貧困や孤食が問題になっている今の社会で、子どもたちが、栄養バランスのとれた食事で満たされるだけでなく、障がいがありながらもNiji cafeで働く人と交流ができる場にもなればいいという考えがあるからです。

つまり、Niji cafeが子どもの居場所にも障がいのある人の働く場にもなり、社会における2つの課題解決に向けてアプローチできるということです。

​​クラウドファンディングに寄せられた支援者の方からの激励のメッセージ。
事業所の通所者さんがつくったそう。

2021年12月のオープンと同時に資金調達のためにクラウドファンディングをはじめると、目標金額を超える1,203,000円が集まりました。

「ありがたいことですね。食材の寄付もしていただいたり、農家さんを紹介していただいたりすることもあります。今、徐々に繋がりができているところです」と藤井さん。

絵本『とっちゃんとふくのかみ』

また、広く認知してもらうために、チラシをつくって配ったり、近くのお店に貼ってもらったりするのはもちろんのこと、クリエイター育成協会が運営する障害者就労支援事業所の通所者さんたちが製作した絵本『とっちゃんとふくのかみ』を近隣の保育園と幼稚園にプレゼントしたときに、子ども食堂のことを話したりして、地道に活動していったのだそうです。最近では一度来てくれた人が次に友達を連れてきてくれるなどじわじわと口コミで広がっているようです。

当たり前は人それぞれ違うから、ちゃんと向き合って話す

バーテンダーとして働いていたこともある店長の渡辺さん

普段は店長の渡辺さんが料理の腕をふるい、その傍で事業所の通所者さんがアルバイト職員を目指して実習に取り組んでいます。

「働いた経験はもちろん、もしかしたら飲食店に行った経験も少ない人もいるような気がします。一人ひとりできることも苦手なことも違う。相手の様子を見ながら『皿洗いをお願いします。盛り付けは私がやります』などと伝えています。マニュアルがあるわけじゃないし、根気のいることですが、それがNiji cafeですから」と店長の渡辺さん。

サラダを盛り付ける通所者の松尾さん

通所者さんのなかには、コミュニケーションが苦手で、感情をうちにため込む人も多いそう。

「事業所でWebデザインなどの勉強をしているときにも、急に廊下に出ていったり、泣き出したりする通所者さんがいて、最初はどう対応していいかわからないこともあったんです。でも、じっくり向き合ってお話を聞くと、本当にどうしようもできない気持ちを抱えているんだなってことがわかって。落ち着いて話すと、それぞれの当たり前が違っていただけだと気づかされることも多いんです」と藤井さん。

どうしてもできない作業に対しては理解と配慮が必要だけど、「それは甘えでは?」と思ったときはちゃんと伝えるようにしていると話してくれました。

活躍の場を広げていくきっかけになれたら

プロジェクトの担当者の藤井さん。普段はWebデザイナー。

Niji cafeはまだ歩き出したばかりです。子どもたちの役に立てたことが働く人の小さな自信になったり、辛さを抱えながらでも働く人を見ることで、子どもたちは何かしら感じ取り、学んだりする。そうした働く人や子どもたちの成長を渡辺さんや藤井さんがあたたかく見守る。「Niji cafe」は、お互いにいい影響を与え合えるような場所に育っていきそうです。ここがスタート地点となり、活躍の場を広げていく人が増えれば、「Niji cafe」のような場所が増え、やがて誰もが働きやすい社会に自然と変わっていくのではないでしょうか。

執筆:若林 佐恵里
編集:北川 由依

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