2020.12.25

鳥のさえずり、子どもの笑い声。”ブランコ入る”と「そのうちcafe」。

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

「六条院公園 ブランコ入ル?」

その住所を探してたどり着いた公園の中に、カフェらしき建物が見えた。真っ青な壁に「CAFE SNC」の白い文字。黄色いのれんには手書きで「そのうちcafe」と書かれている。なんだか「おいでおいで」と手招きされているような気がして、扉を開いた。

「ブランコ入ル」と、そのうちcafe

カウンターで迎えてくれたのは、店主の浅井琢也(たくや)さん。2018年9月、五条通りから南へ少し下った、六条院公園に面した場所にそのうちcafeをオープンした。くまのパディントンのように、青いシャツに赤い帽子がトレードマーク。もとは愛知県の奥三河の出身で、長らく東京でIT関連の会社に勤めていたそうだ。

「なぜ京都にいらしたんですか?」と聞くと「行きがかりじょう、だよ」と言いながら、一冊の本を手渡された。『人生、行きがかりじょう/バッキー井上(ミシマ社)』。「バッキーさんが好きでね」と、浅井さん。今まで関西と縁はなかったが、奥さまが仕事の関係で滋賀に移り住むことになった。「ノープランだったんだけど」と、浅井さんもこちらに移り住むことを決めたそうだ。私の質問に答えながら、浅井さんは手挽きのミルでいい音をたてて、珈琲豆を挽いている。

「せっかく関西にいるんだし、京都でカフェをやろう」と思い立った浅井さん。物件情報を調べはじめた。最初に見つけたのが、今の物件だ。早速、次の日の朝にこの場を訪れると、大家さんが掃き掃除をしていた。隣の公園にはキャッキャと楽しそうな子供の声が聞こえる。「いいところだなぁ」。しかし、物件と公園の間には塀があった。「塀をとっちゃったら、面白いんじゃないか」。頭に思い描いたアイデアを実行するべく、役所に行って許可をとった。

「なぜカフェを開こうと思ったんですか?」と聞くと、次の本を差し出された。『美味しいコーヒーって何だ?/オオヤミノル (マガジンハウス)』。独自のアプローチでおいしいコーヒーを追求する京都出身の焙煎家・オオヤミノルさんの本だ。京都に来る以前からコーヒー好きが高じて、本などで得た知識を元に焙煎を行っていた。もちろん、そのうちcafeの珈琲豆は、浅井さん自らが選び、焙煎したものだ。

「行きがかりじょうだよ」と浅井さんはいうけれど、きっとこれまでのたくさんの経験や思いがあったからこそ、そのうちカフェができたんじゃないかなと思った。「どうぞ」と、テーブルにコーヒーが置かれた。飲むと、こうばしい香りとやさしい苦味が口いっぱいに広がった。

外国人と子供は面白いんだ。

「外国人と子供と話すのが面白くてね」と、浅井さん。20代前半は青年海外協力隊としてアフリカに行っていた経験も。外国人と「あなたの人生は?」「お金についてどう考える?」と、その人それぞれの思考や価値観をディスカッションできることが面白かったそうだ。

新婚旅行中にチェンマイで出会った現地の夫婦に招かれて、1週間ホームステイしたこともあった。京都にカフェを開いたのも、海外の人と話すチャンスがたくさんあると思ったから。これまでに29か国もの人がそのうちcafeを訪れた。とても気に入り、日本へ旅行するたびに訪れる人もいるそうだ。

お店のフライヤーに描かれているのは、フランス人老夫婦とドイツ人の女学生。

取材中に「こんにちは」と公園からお客さんが入ってきた。満席の店内を見て「公園でキャッチボールしていてもいい?」と浅井さんに声をかける。店の端っこにある木の箱から、慣れた手つきでグローブとボールを取り出した。浅井さんは公園に壊れて置きざりにされていた道具を見つけては直し、お客さんや公園に来る子供たちに貸しだしている。

店内には子どもたちの手作りの作品もちらほら。大人も子どももみーんな、そのうちcafeの常連さん。

そのうちギャラリー

訪れたその日は、東京在住のイラストレーター・須山奈津希さんの作品が壁面に並んでいた。須山さんのやさしいタッチで描かれた絵は、まるでこの場所のために描かれたよう。

この展示のキュレーターをつとめた仲西加津美(かづみ)さんは、そのうちcafeの常連さんだ。元はここからほど近い五条モールで、ギャラリーを営んでいた。浅井さんから、コロナ禍でこれからどうしようかなと相談を受けて、今回のような展示を行うことになった。

「カフェに作品をおくことで、作家さんのファンとお店のお客さんが混じり合う感じがいいんじゃないかなと思って」と仲西さん。展示のDMを他のギャラリーや本屋に置くことで、今までここを知らない人が足を運ぶきっかけにもなっているそうだ。これまでギャラリーに訪れたことがないという人にとっても、肩肘張らずに新しいアートやカルチャーに触れることができる。

これからもぞくぞくと作家さんによる展示などを企画中。2月からは、そのうちcafeに集うお客さんのグループ展も開催する予定だ。

※展示・須山奈津希「呼吸」は、2020.12/20まで開催。

そのうちに、場所とつながり、人とつながる

最後にお店の名前の由来を尋ねると、3冊目の本が手渡された。『そのうちプラン/ヨシタケシンスケ( 遊タイム出版)』。イラストレーター・ヨシタケシンスケさんのスケッチ集。「そのうちっていう字面もいいし、響きもいいからぱくったんです」と浅井さんはいたずらっこのような笑顔を浮かべた。

取材をしていたはずなのに、浅井さんと話しているうちにだんだんと世間話をしているようになってしまった。そのうちcafeに来る人はみんな、浅井さんと話すこの時間が好きなんじゃないかな。そうやって何回も足を運ぶそのうちに、ここがホームのような気持ちになる。また公園抜けて、浅井さんに会いに行こう。今度は何を話そうかな。

『そのうちcafe SNC』
住所:京都府京都市下京区塗師屋町119
※五条高倉下ル 六条院公園 ブランコ入ル(青い塀と黄色い暖簾が目印です)
TEL:090-1767-0126
定休日:無休
営業時間:11:30~20:00
ホームページ:https://peraichi.com/landing_pages/view/sonouchicafesnc
Instagram:https://www.instagram.com/takuya_asai

執筆:ミカミ ユカリ

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