よさのワーキングステイ・トライアルから始まった、それぞれの1年。〜開催レポート〜

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京都府の北部に位置する人口22,000人ほどの小さな町、与謝野町。東は天橋立が見える海が広がり、西は豊かな緑を抱える山々に囲まれています。代表的な産業には、豊かな土壌で続いてきた農業や酒造り、そして「丹後ちりめん(※1)」があります。

(※1)丹後ちりめん・・丹後ちりめんは経糸(たていと)に撚りのない生糸、緯糸(よこいと)に1メートルあたり3,000回前後の強い撚りをかけた生糸を交互に織り込んで生地にし、その後、精練することによって糸が収縮し、緯糸の撚りが戻ることで生地全面に細かい凸凹状の「シボ」ができる織物のこと。(参照:丹後織物工業組合HP)

現在、与謝野町では、地場産業の魅力を見直した新たな商品の開発や “みえるまち” をコンセプトにした町全体のブランド戦略に積極的に取り組み、新たに人々の行き来が生まれています。

そんな、与謝野町の暮らしや地域ならではの仕事を体験できる「よさのワーキングステイ・トライアル」(以下、よさのWST)。5〜14日間ほど与謝野町に滞在しながら、地域の魅力的な仕事を知り、人やコミュニティに触れていただく企画です。

2016年からスタートした本企画も、今年で3回目の開催。地域ならではの仕事を体験してみたい方、伝統産業に携わってみたい方、地域との新たな関わりを見つけたい方など、さまざまな視点から与謝野町へ足を運んでいただくことができました。

本記事では、参加者や受け入れ企業のその後を訪ねてみようと、第1回、第2回にプログラムの受け入れを行った柴田織物五代目の柴田祐史さん、第2回のプログラムに参加し、2018年4月から同社で働いている関祥太さんのもとを訪ねました。

柴田織物に、新たに人を迎え入れた1年。

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▲左から柴田祐史さん、関祥太さん

柴田織物が代々手がけてきたのは、「縫取(ぬいとり)ちりめん」という丹後ちりめんの中でも特殊な加工を施したもの。生地に金糸・銀糸・ウルシ糸・ラメ糸などの装飾糸を使って模様を縫い取った贅沢なちりめんで、留袖・訪問着などを中心に豪華さを演出する場面で使用されています。

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京都で続いてきた多くの伝統産業と同じように、丹後ちりめんも分業制をとっています。糸をつくる企業や、ジャカードのデータをつくる企業など、図案、織り、染め、加工それぞれに職人や企業が関わっており、データや柄の権利を持っていない工場は、これまで直接お客さんの顔を見てやり取りをすることはできませんでした。

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▲実際のデザインデータ。横列に912ものドットが並び、その1つ1つに色を指示していきます。

ですが、柴田さんは、自分が手がけた商品を手に取ってもらえる喜びを 職人自身が知ることで、「もっといいものをつくろう!」という次の原動力が生まれると思い、デザインをおこすところから、生地を織り、商品として販売するまでの工程を一貫して自社で行うことに。

これは同時に、「丹後ちりめん」が1つの工場あたり年商2億円を売り上げた時代から、産業全体が右肩下がりに落ち込んでいる現代を生き抜いていくための戦略でもありました。

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柴田さんが跡を継いでからは、「縫取ちりめん」の技術を応用したユニークな図柄にも挑戦しています。たとえば、溝の蓋や鉄板柄、迷彩柄など、これまで日本中どこを探しても見つからなかったような図柄が柴田織物から生まれています。

「私たちがこの工場で織っているのは、留袖用の高級な生地になるのですが、『和装』は一部の人たちのものだけではなくて、もっと間口が広いものだと思うんです。伝統産業として後世へ続いていくことはもちろん大切ですが、そのためにも、織り手である自分自身が『ほしい!』『着てみたい!』 と思える生地をつくることを大事にしています」(柴田さん)

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こうした柴田織物の取り組みを持続・発展させていくために、そろそろ人手が必要だと感じていたタイミングで、与謝野町から「よさのWST」の企画提案があったそう。

「これまで家族経営で行ってきたので、正直なところ、本当に自社で人が雇えるかどうか不安でした。『よさのWST』では、町からバックアップしてもらいながら 新たに人を迎え入れるシミュレーションができたので、これであれば人を雇っても大丈夫だろうとイメージが湧きました。私自身も、若い方々が丹後ちりめんに関わってくれることで良い刺激になりました」(柴田さん)

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2週間に渡るプログラムは、商品企画、デザイン、生産、販売まで、すべての工程を体験する盛りだくさんの内容となっています。柴田さんは「この仕事のどんなところにやりがいを感じてくれたか」「月にいくらぐらいのお給料だったら実際に働いてみたいか」など、参加者の生の声を聞きながら、採用へ向けて会社を整えていきます。

第1回のプログラムは3名、第2回のプログラムは関さん1名が参加。柴田織物で次年度から人手を増やそうと思っていたタイミングで参加したのが、関祥太さんでした。

▼よさのWST2017「柴田織物」のプログラム詳細はこちら
https://kyoto-iju.com/yosano-wst/program/hataori/

 

柴田織物で働き、与謝野町で暮らし始めて1年。

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北海道出身の関さんは、現在23歳。高校進学とともに上京し、ファッションの分野を志そうと服飾の専門学校「文化服装学院」へ入学。専門学生時代は、自分でつくった生地で服を仕立てるプロジェクトを行っていました。

「日本全国の生地の産地を調べていたので、丹後がちりめんの産地であることは知っていました。ただ、他の産地と比べてみてもインターネット上の情報が本当に少なくて。まずは見に行ってみようと思い、専門学校の講師に相談したところ、柴田さんを紹介してくれたんです。そんなご縁もあって柴田織物を訪れたのが2017年の夏でした」(関さん)

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同年の9月末に開催された「よさのWST」に参加することになり、再び柴田織物を訪れた関さん。

期間中、滞在する家に備え付けてあった家具が 初日に壊れて大変だったり、見慣れない与謝野町の町並みに迷子になってしまったりと、いい思い出ばかりではなかったようですが、仕事の流れを体験し、町の方々と交流したことで与謝野町の空気を感じられたと当時を振り返ります。

そして、専門学校卒業とともに柴田織物で働くことを決意。

「和装業界は、入ろうと思って気軽に入れる業界ではないので『よさのWST』で柴田織物と縁ができてよかったと思っています。2週間ではありましたが、滞在しながら仕事面・生活面での予行演習ができ、実際に暮らしていくイメージもしやすかったです。また、自分がこれから『生地』を通して勝負していきたいことと、柴田織物の方向性に重なる部分を感じ、この時代に生産地や小さな工場が生き残っていくための挑戦ができると思いました」(関さん)

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関さんが柴田織物で働き始めて、まもなく1年が経とうとしています。

「本当にあっという間の1年でした。自分自身もあまり実感がなくて、ただただ、12ヶ月が経過したという事実だけがあるような感じがしています。仕事面は、最近ようやく仕組みがわかってきたので、地道に積み重ねていけば 数年後にはいろいろ見えてくるのではないかと思います。和装には、これまで勉強してきた洋服とは異なるセンスが必要なので、そういったところを学んでいきたいですね」(関さん)

生活面での変化は、魚を食べられるようになったこと。北海道にいた頃も、東京でも食べられなかったお刺身が、与謝野町に来て美味しい! と思えるようになり「お店でお酒を飲む時は、自ら刺身を頼むようになりました」と笑顔で話してくれました。

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–––– 丹後ちりめんを、和装を、もっと身近なものにしていくために。

「丹後ちりめんの価値を私たち日本人が再発見していくために、今は国外への発信に力を入れています。生地の需要が高まり、生産地がきちんと稼いでいく仕組みができたら、地域に新たな雇用を生み出すことができるので」と将来の展望を語る一方で、産地や生産・流通の構造に課題はたくさんあると柴田さんのお話は続きます。

そういった業界全体の複雑な構造や、和装に対する高級なイメージを打ち砕きながら、チャレンジしていく柴田さんと関さん。そんなおふたりが働く柴田織物の元へは「玉虫色の着物がほしい」と、色見本に昆虫図鑑が送られてくることもあります。

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「和装はもっと自由で楽しくて、幅広いものであっていい」

それぞれにお話を伺いながら「和装」や「丹後ちりめん」「生産地」に対する熱いメッセージを受け取ることができた今回のインタビュー。おふたりの挑戦はまだまだ始まったばかり。今後のご活躍が楽しみですね!

 

地域が、ものづくりがみえるまち。

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–––– 地域ならではの産業を、地域の外にひらいてみる。

与謝野町が「よさのWST」を通して挑戦しているのは、新たな人の行き来から生まれる【地域】や【仕事】との新しい関係性づくり。地場にある産業の魅力を見直し、クリエイティブな関わりしろを加え、魅力的に発信していくことで、町外からも「与謝野町に関わってみたい!」と思わず足を運びたくなるような、町全体のブランディングへとつながっていきます。

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今回の「与謝娘酒造」のプログラムでは、お酒造りに興味をもちお米を育てている参加者、グラフィックデザインができる参加者とともに【130年の伝統と変化】【世界への発信】を軸に、伝統産業が後世に続くヒントや新たな商品開発を考えました。

▼プログラム募集記事はこちら(※今期のプログラムは終了しました)
https://kyoto-iju.com/yosano-wst/program/sakagura/

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また、「かや山の家」のプログラムでは、旅行業に関わった経験がある参加者と共に、Uターンや宿泊業という観点から【地域資源の発掘】や【地域資源を生かしたコンテンツの企画】を考えました。

▼プログラム募集記事はこちら(※今期のプログラムは終了しました)
https://kyoto-iju.com/yosano-wst/program/kayayamanoie/

 

「よさのWST」は、与謝野町へ足を運んでもらうきっかけのひとつにすぎないかもしれません。ですが、プログラムを通して、こうして新たにこの地を訪れた人たちと共に、地域の、ものづくりの未来を考える機会が生まれているのではないでしょうか。

来年度も開催を予定している「よさのワーキングステイ・トライアル」。ご興味のある方はぜひ、公式HPをチェックしていただけると嬉しいです!

◆よさのワーキングステイ・トライアルHP:https://kyoto-iju.com/yosano-wst/

 

(文責・並河杏奈)

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