2019.12.21

京都だから飲めるビールを障害者とともに堀川今出川『西陣麦酒』

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京都の日常を彩る食を訪ねる「食を巡る」シリーズ。京都らしい食べ物や飲み物、京都移住計画メンバーのお気に入りの一品をご紹介する連載コラム記事です。食べることは生きること、京都での暮らしに彩りを与える物語をお届けします。

食を巡る第8弾は、堀川今出川にある『西陣麦酒』を紹介します。2017年『NPO法人 HEROES』により設立されたブルワリー(醸造所)で、オリジナルのクラフトビールが味わえます。瓶詰のビールが購入できるほか、毎週金曜日はタップルームが解放され、バルのように気軽にビールを飲むことができますよ。

街中の小さな醸造所

夏に行われたイベントでの様子。手前が林田さん、左奥の黒シャツ姿が中大路さんです。あとの2名は学生インターンで、出店の手伝いをしてくれたそう
PHOTO:西陣麦酒

西陣産業会館の一室に設けられた「西陣麦酒」は、『NPO法人HEROES』によって運営の小さなブルワリー。発達障害や自閉症の人たちの生活や就労支援の場になればと、2017年に設立されました。街中にありながら、クラフトビールを醸造、販売。京都らしさを感じる、おいしいクラフトビールが味わえます。

障害者の就労支援というと、パンや焼き菓子、カフェなどが多い中で、ブルワリーは珍しいジャンル。発達障害や自閉症の人たちが得意とする、繰り返しの作業やラベル張りなどが作業が生かせることや、たち上げメンバーがビール好きなのもあって、ブルワリーに決めたそうです。

夏に行われたイベントでの様子。手前が林田さん、左奥の黒シャツ姿が中大路さんです。あとの2名は学生インターンで、出店の手伝いをしてくれたそう。PHOTO:西陣麦酒

現場では、林田貴志(はやしだ・たかし)さんと中大路修平(なかおおじ・しゅうへい)さん(当日は仕込中でお話を伺えませんでした)の2人が、醸造責任者として、それぞれビールのレシピ設計。
そこに、今年度から加わった2名の利用者の方と、主に4名で運営しています。

ビールは定番商品含め年間15種以上が作られていて、季節限定商品もあります。1回の仕込みで200リットル作られるそうですが、なくなれば別種類のビールが仕込まれるので、「こないだのアレが飲みたい!」と思っても完売な場合も。その時の出会いを楽しんでみてください。


ビールはタップルームはじめ、市内の飲食店20か所ほどで味わうことができます。ボトル詰めのものは、オンラインショップや京都マルイ地下1階・寺を商店などで購入可能。おしゃれなラベルに、スタッフが考えたセンスのいいネーミングはとても素敵と、京都土産に選ばれることもあるのだとか。

金曜のみのタップルームで樽出しを味わおう!

PHOTO:西陣麦酒

毎週金曜日営業タップルームは、地元民から”京都 クラフトビール”で検索してきた観光客など、様々なお客さんで賑わいます。国籍や地位、障害あるなし関係なく、思い思いに楽しんでいるのだとか。タイミングによっては満席になることもあるので、確実に利用したい場合はサイトから予約できますので利用してみてください。

4つあるタップからは、樽から出されたばかりのクラフトビールが注がれます。お手頃な値段なのであれこれ飲んでしまいそう(飲みすぎ注意)!
用意される”酒のアテ”は、乾きものや缶詰など簡単なもののみ。フードの持ち込みOKなので、合わせたいアテを持参で来店しても大丈夫です。

発酵にチャレンジしたい!と発信がきっかけで

林田さんは大分県生まれ京都府育ちですが、転勤でいろんな地域に住んでいました。「故郷は?」と聞かれると九州を思い浮かべるそうですが、京都での生活が一番長く、現在も山科区で暮らしています。

前職は10年勤めた金融機関。仕事は順調でしたが、「人生このままでいいんかな?」とくすぶりがあったといいます。2016年におばあさまが亡くなった時に死生観が変わり、『腐る経済』を読み感銘を受け鳥取に移住を考えますが、諸々の事情でとん挫。2017年に退職する時は次が決まっていなかったそう。

退職前から、漫画「もやしもん」がきっかけで、塩麴や味噌を仕込んだり、発酵食品にハマったという林田さん。SNSで、「会社を退職するけど何も決まっていない。発酵の仕事にチャレンジしたい」と発信したところ、なんと『西陣麦酒』立ち上げメンバーの関係者から、「プロジェクトに興味ありませんか?」と連絡が来たのだそう!とんとん拍子に話が進み、立ち上げメンバーより少し遅れて加入、以来醸造担当として忙しい日々を送っています。

自閉症就労支援の礎になりたい

賑わうタップルーム
PHOTO:西陣麦酒

『西陣麦酒』をはじ始めてみての感想をお聞きすると、このような答えが返ってきました。
「前職もやりがいがあったけど、今は自分でプロダクトを作ったり質を追求したり、良い悪いの評価がよりダイレクトに聞ける。これがものづくりなんだと感じる」

また、ビールをきっかけにいろんな所に出ていける、いろんな人に飲んでもらえること。国境も社会的地位も年齢も関係なく広がっていくのがおもしろいとも感じています。

「発酵にチャレンジしてみたい気持ちからここまできたけど、実はこの先は見えていないんです。何か具体的な目標が見つかればいいな…」と話す林田さん。

最後、今後についてお伺いしたところ、こんな熱いビールへの思いを語ってくれました。

「これまでのように、普段使いで飲んでもらいながら、”京都だから飲めるビール”としてのブランド価値を上げていきたいです。より良い品質のより良いビールを作っていきたいですね」

前年に比べ倍以上の出荷量で、予想以上の売れ行きに喜びを感じつつ、このままでは手狭で生産が追いつかなくなるそう。移転も視野に入れているそうで、「移転し広さや作業内容が増えれば雇用が増やせる。自分たちは自閉症就労支援の礎になりたい」とも、林田さんは語ります。

就労の場を待ち望む自閉症の方々にとって、これほどうれしいことはありませんよね。必要とされる方々のためにも、西陣麦酒をもっとメジャーなものにしていただきたいと思います。

『西陣麦酒』
住所:京都市上京区竪門前町414 西陣産業会館115 HEROES内
TEL: 080-2514-3441
HP:http://nishijin-beer.com/
facebook:https://www.facebook.com/nishijinaleproject/
※タップルームは現在休業中です(更新:2021年3月)

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