2013.08.14

場をめぐる01 〜518桃李庵〜

そこは烏丸今出川の北西に位置し、同志社大学の学生の姿を多く目にする場所からは少し外れた静かな住宅街。一見さんだと通り過ぎてしまうような路地の奥に518(ごいちや)桃李庵(とうりあん)(以下:518)がある。

もともとは、横に並ぶ母屋に住む大家さん(中山さん)の自宅の離れだった場所を、3つのNPOや会社がシェアオフィスとして借りている京町家だ。学生や社会人が昼夜問わず集い、毎週金曜日はワンコインのオープンな食事会「ごいちや食堂」を開催している。知る人ぞ知る隠れ家的なコミュニティスペースの役割も果たす。

出迎えてくれたのは、この場所の運営をしているNPO法人場とつながりラボhome’s vi(以下:home’s vi)で働くふじわらよしひこさん。物腰柔らかい雰囲気のふじわらさんに、518桃李庵について語ってもらった。

DSC_0576           写真左が518の管理をしているふじわらさん

 桃李不言下自成蹊

名前の由来に、その場所の想いや方向性を示すヒントが隠されていると思い、518(ごいちや) 桃李庵(とうりあん) という名前について教えてもらった。「518というのは、番地の名前で、この住所の上京区挽木町518番地から文字って名前をつけた」 愛称として518(ごいちや)と呼んでいる人が多いようだ。

「桃李庵(とうりあん)は、中国の故事『桃李不言下自成蹊(とうりものいわざれども、したおのづからこみちをなす』からきていて、桃や李(すもも)は何も言わないが、花の美しさひかれて多くの人が集まってくるから、その下には自然に小道ができる。桃や李は徳のある人の例えで、自ら何も言わなくても徳を慕って自然と人が集まってくる。そういう場所でありたい」

その想いからか目立った告知や広報は特にしていないという。拡大して色んな人に宣伝してコミュニティからお金を取ろうとしているわけではなく、想いがある人や面白い人や魅力的な人がいれば、美味しい桃があるように、自然と人も集まってくる。

はじまりは「西海岸」という学生シェアハウス

「西海岸」というのは、発起人の嘉村賢州さん(home’s vi代表)のワンルームの自宅を24時間365日開放するという活動から始まり、町家を借りる学生シェアハウスの草分け的な存在として、2003年から紹介制で1,000名以上の人々が訪れたシェアハウスだ。その後、「西海岸」は名前や場所を変えて現在は、「お結び庵」という名前で男女6人が暮らしている。

現在このシェアオフィスで活動しているNPO法人のhome’s viも、シェアハウスの「お結び庵」で生まれたそうだ。2009年に法人化しオフィスは別で借りる事になった。それが今の518となる。もともとシェアハウスの住人の繋がりから始まった為か、オフィスだけれども、仕事一辺倒になるような雰囲気ではなく、暮らすように働ける場所という印象を受ける。

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         リカちゃんハウスのように全ての部屋がダイニングから見える

色んな人や組織の交差点でありたい

現在このシェアオフィスには、NPOをはじめスタートアップの企業や起業準備中の団体やフリーランスの方々に働く場やポストを貸している。1階はイベントスペースやコミュニティスペースとして利用が可能。利益重視でしているわけではないという言葉通り、カンパ制やスペースのレンタル料も良心的な価格だ。2階はhome’s viのオフィスで他の部屋が別団体の事務所としている。

この場としての取り組みとしては、畑部という取り組みをしており、一坪位の畑を借りて野菜を育てている。「今年の4月〜6月は収穫時期で色々とできたけれど、最近は手つかずで大家さんが怒っているんじゃないかな」とふじわらさんも苦笑い。もっと工夫はしていきたいと語る。その他にも、ICTラボという地域メディアの情報基地や、2012年度の京都人間力大賞を受賞したホスピタルアートなども、この場で生まれた取り組みだそうだ。

人が持つ個性や成長を大事にする場所にしていきたい

シェアハウスの繋がりからシェアオフィスとなったコミュニティにはどういう人達が集まるのだろうか。ふじわらさん曰く、「自分の大学には友達がいなくても、どこか居場所を探している人が集まる場かな」という発言に、周りにいたメンバーからは賛否両論あったが、誰かと繋がりたいとか、何かしたいけれども明確なものが決まっていない人や迷いのある人が、集まり易い雰囲気があるのではないかと、これまで訪れた人達を思い出すようにして言葉を選ぶ。

「ただ単に安い貸しスペースがあるとか、場所が魅力だからではなく、 人と人が繋がって欲しいし、初めて来る人と今まで来てくれた人と人との関係性を大事にしていきたい。一見さんお断りとも言いながらも、そうでもない部分もある。しんどいときも元気なときも一緒に傍にいてあげれるような関係性を作っていれるようなコミュニティにしたい」と受け入れる懐の広さを感じる。

「お客さんに場所のこと(コンセプトや方向性)をもっと教えて、とか説明してっと言われることがある。ここは何の場所ですか?という問いかけがあるけれど、困まってしまう(笑)」

場所の今後や将来像について聞いてみたところ、やはりそれらしい答えが返ってきた。

「現状維持は退歩と言われるけれども、今のままでいい。価値を創造しなくてはならないという感もあるけど、もっとゆったりと自然発生的なものを大事にしていく。無理やり創造するのではなく、自然に生まれる感じでやっていきたい。」と語る口調はやさしいようで力強い。

518桃李庵のシェアオフィスとしての魅力

「僕もそうだけど、がつがつ仕事をするタイプじゃない人達が生活と仕事を切り分けないような感じで働いている感じが好きで、そういう場所にいれるのがいい」仕事とプライベートの境目が曖昧。人との出会いもそんな感じで、仕事じゃない感じの出会い方ができるのが、このアットホームなシェアオフィスの特徴なのかもしれない。

取材中にもその日が誕生日の学生が訪れると、誕生日祝いを皆でしたり、横で作業をしているスタッフの方からも、気軽な感じでツッコミが入ったりと終始なごやかな感じで、まさに場の魅力を体感しながらお話を聞く事ができた。

DSC_0596            いつも色んな人が訪れる518食堂の様子

取材後は、約3年間続く金曜日のご飯会518食堂で、大家の中山さん(写真の右から3番目の方)手作りの夕食をご馳走になった。この場所を通じて交わる人々が、自分らしさを見つめ直し、本当にやりたいことや好きなことへと、次の一歩を踏み出させてくれるような優しい雰囲気の場所だ。

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